屈辱の部室 カンタ

夕暮れのサッカー部部室。
 練習を終えた部員達が戻ってき、ユニホームを着替えている。いずれも今年入部したばかりの一年生であり、練習後の後始末やコート整備などがあったために、残っているのは彼らが最後であった。
「あー今日も終わった、終わった」
「コンビニでも寄ろうぜ。マジ腹減った」
 皆疲れ切った様子ではあったが、練習を終えた部員達の表情はいずれも明るい。
 そんな中で、一人着替える事もなくどこか暗い表情で中岡健史は佇んでいた。
「ん?健司、どうしたんだよ?」
 友人の一人が、そんな健史の様子に気付いて問い掛けてくる。
「あ、いや……何でもない。先に帰っててくれよ」
 すぐさま健史は、取り繕う様に答えた。
「どうして?」
「ほら、もうすぐ試合だろ?ちょっと、小西先輩と色々打ち合わせがあんだよ」
「へぇ、レギュラーも大変だな」
 そう言いつつも、友人達は羨ましげに健史を見る。
「いいよなぁ、今度の試合でレギュラーになれて。小西先輩と話すなら、少しは俺達の事も推薦しといてくれよ」
「ああ、分かった」
「そんじゃ、俺達先に帰るわ」
「ああ、また明日な」
 ぞろぞろと、友人達が部室を出ていく。
 手を振りそれを見送る健史。しかし皆が出て行って部屋が自分一人だけになると、再び健史の表情は暗くなっていく。
 夏の大会はもうすぐであった。今度の試合に、一年生の健史はレギュラーに抜擢され、試合に出場する予定となっていた。しかし他の友人達の羨望とは裏腹に、健史自身はこの事に関し、ほとんど嬉しさやその幸運なチャンスを喜ぶ事が出来ないでいた。もちろん、健史は自分のサッカーの実力に対し、大きな自信と自負を持っている。しかし今回の抜擢が決して正当な評価と選考によって行われた訳でない事を、健史自身が一番よく分かっているだけに、その後ろめたさと、それに甘んじてしまっている自分自身への嫌悪で健史の心は一杯であった。

「お疲れさん」
 皆が帰ってから数分後、二年生の小西孝太が部室へと入ってくる。
 一気に、健史の表情は緊張に強張る。
「残っとけって、俺に何の用っすか……?」
 孝太から視線を背けつつ、低い声で健史は問うた。
「いきなりそんな冷たい言い方はないだろ?せっかく二人きりになれたって
のに」
 口元に笑みを浮かべ、孝太は健史へと足を進めてくる。
 そんな孝太に、健史は反射的に後ずさりした。
「こ、こっちだって忙しいんです……大した事じゃないんなら、俺もう帰り
ますから……」
「へぇ、随分と強気じゃねぇか」
「………」
「そんな態度、取っててもいいのかなぁ?」
 次の瞬間、一気に孝太が距離を詰めてくる。
 慌てて身構えようとする健史。しかし素早く伸ばされた孝太の手が、健史
の腕をガシッと掴んできた。
「や、やめてください……!」
 逃げようとする健史。
 しかしそんな健史の身体を、孝太が強引に引き寄せてきた。

「最近ご無沙汰だったし、お前だって欲求不満だろ?」
 そう言いながら、孝太は左腕を健史の背中へと回してくる。
「勝手な事言わないでください!」
 孝太の腕の中で必死に抗おうとする健史。
 しかし孝太は何ら怯む様子はない。
「だったら、確かめさせてもらおうか」
 孝太はそれまで健史の腕を掴んでいた右手を、今度は少年の下半身へ伸ば
してくる。
「っ……!」
 孝太の手掌が、ユニホームパンツの上から健史の股間をしっかりと掴んで
きた。
 声を失う健史。
 左腕でしっかりと健史の身体を拘束しつつ、孝太の手がゆっくりとした手
付きで股間を弄っていく。
(だめだ、耐えろ!)
 布地越しに、指の動きが鮮明に伝えられてくる。そんな中で、健史は自身
へと懸命に言い聞かせようとする。しかしそんな健史の意志とは裏腹に、加
えられてくる孝太からの刺激は、精気溢れる年頃の少年の身体を、敏感に反
応させてきてしまう。
(ヤバイ・・・!)
 覆い被さる孝太の手掌の下では、しだいにその部分の布地が大きく膨れ上
がっていく。それにともない、孝太による指の動きに合わせ、股間の中で疼
きが著明なものとなってくる。

「んっ……はぁ……」
 しだいに健史の息が荒くなっていく。
 そんな健史を眺めながら、孝太はニヤリとしてくる。
「ほらほら、もうこんなに固くなってきてんじゃねぇか」
「………」
 孝太からの指摘に、健史は何ら反論出来なかった。
「ホント、お前って愛想悪いよな。せっかくレギュラーになれるよう監督に
推薦してやったんだし、少しは感謝しろよ」
「ち、違う!俺は先輩にそんな事頼んでなんか……!」
「分かってるさ。お前の実力が、十分レギュラーとして通用するものだって
事はな。だけど、酒はマズかったな」
「あれは……その……」
 一転、健史の言葉に勢いが失われていく。
「生徒の不祥事にうるさいこのご時勢だ。もし飲酒事件が表沙汰になりゃ、
レギュラーどころか、サッカー部に居られるかどうかすら分からないぞ?ま、それでもいいって言うなら別だけどな」
 健史の耳元で、孝太は囁く様に言ってくる。
ギュッと、強く下唇を噛み締める健史。孝太からの言葉に、その表情は悔し
さが滲み出てきていた。
「卑怯だ……」
 震える声で健史は呟く。
「自業自得だろ?」
 何ら悪びれる様子もなく、孝太はあっさりと言い返してきた。
 自業自得。まさにその通りなのかもしれない。己の浅はかな行為を、健史
は何度悔やんだか分からない。

 一ヶ月あまり前、健史は他の数人と共にとある友人宅に泊まった。
 その日の夜、その家の親が留守であったのをいい事に、皆で酒を飲んで大
いに騒いだ。なぜ酒を飲んだかについては、明確な理由はなく、単にその時
のノリでとしか説明のしようがない。しかし理由はともかく、どういう訳か、
その出来事が先輩である孝太の知るところとなったのである。そしてそれは
同時に、孝太に弱みを握られ抗えない状況に陥ったという事であった。
 健史はその時、孝太が自身に対しあまりにおぞましい感情を抱いていた事
を知った。しかし結果的に、健史は自身の不始末を内密にしてもらう代償と
して、孝太のその欲望を満足させてやる以外に術はなかった。

いっそう、孝太の指が活発に動かされていく。
 思わず発してしまいそうになる声を、健史は懸命に堪える。しかし加えら
れる刺激は、確実に健史の欲望を追い詰めてきていた。
「お前だって、今まで頑張ってきたんだし、それを無駄にしたくはないだろ?」
「だ、だから……何だってんっすか……?」
「なのに、まだ抵抗する気か?」
「………」
 黙り込む健史。
 もはや健史に抵抗は出来ないと見切ったらしく、孝太は回してきていた左
腕を解いてくる。そしてなぜか、それまで散々弄んでいた健史の股間からも、
孝太は手を離してきた。
(……?)
 密着していた身体も離してき、ここにきて健史の身を完全に自由にしてく
る。しかしそれは、決して健史の解放を意味しなかった。
「脱げよ」
「え……?」
「下、脱げ」
「………」
「出来るよな、健司?」
 冷たい笑みで、わざとらしい問い掛けを孝太は投げてきた。
 そのあまりに容赦ない孝太からの命令に、健史の中で感情が激しく高ぶっ
ていく。自然と、健史は孝太を強く睨みつけていた。
 しかし孝太は、余裕たっぷりの表情で健史と対峙し続ける。
「どうした、何か言いたい事でもあるのか?」
「………」
 しかし弱みを握られている健史に、拒絶の意思を発する事は出来なかった。

 何も言えず、ただ佇む健史。しかしいくら迷いや躊躇を覚えたところで、
もはや選択の余地などなかった。
(こんな事を早く終わらせるためだ、しょうがないんだ)
 そう自分へ必死に言い聞かせつ、やがて意を決し、健史は自身が穿く
ユニホームパンツに手を掛ける。
 黙って、孝太は健史の行為を眺め続ける。
 これまで、健史は同性相手に下半身を曝け出す事に対し、さほど苦には思っ
てこなかった。特に部員同士であれば、部室や合宿での入浴場などにおいて、
互いにふざけ合って平気で見せつけたりしていた。しかし今はなぜか、孝太
を前にしてこの上ない羞恥心を抱かずにいられない。自身へ向けられる孝太
の眼差しを、過剰なまでに意識してしまう。
「どうした?脱ぐくらい、もっとテキパキ出来るだろ」
 躊躇してしまっている健史に対し、孝太が容赦なく急かしてくる。
「は、はい……すみません……」
「恥ずかしいのか?」
「別に……」
 健史は言葉を濁す。
「そうだよな、俺にはもう何回も見られてるもんな」
「………」
 孝太の言い方は、明らかに皮肉に満ちていた。
 あえて自らに脱衣を命じる事で、意図的に辱めと屈辱を味わせられている
事を、健史は悟った。その孝太の陰湿さに怒りを覚えながらも、もはや後に
退く事は出来ない。健史は意を決し、ユニホームパンツの両腰をギュッと強
く掴み、下のトランクスもろとも一気に引き下ろした。

 ほくそ笑む様に、孝太の口元が歪む。
 そのまま健史はパンツから両足を引き抜き、その場へ脱ぎ捨てる。すっか
り下半身を露出させた姿で、健史は孝太に対峙した。しかし孝太へと顔を向
ける事は出来なかった。
「こ、これで……いいっすか……?」
 背けた顔を真っ赤にさせながらも、健史は下半身を露わにさせて孝太と対
峙する。
 そんな健史の姿を、孝太は満足気に眺めていた。
「こんなビンビンにさせて、よく偉そうな態度でいられるよな」
 指摘される通り、恥ずかしさにすっかり委縮してしまっている健史とは裏
腹に、孝太からの刺激を受けていたペニスは天井を仰がんばかりの勢いで勃
起しきっており、その猛々しい姿からはまるで衰える気配がなかった。
 フフンと鼻で笑うなり、大きく反り返る健史のペニスを、孝太は乱暴に掴
んでくる。
「あっ……!」
 ビクッと、健史は全身を震わせた。
「ほら、どうしたんだ?」
 健史の反応を楽しむ様に、さっきまでの繊細な手付きとは裏腹に、一気に
ペニスを扱き立てていく。
「んぁっ……や、やめてください……先輩……!」
 ガクガクと、健史の足腰が震え出す。それと共に、剥き出しの亀頭から
は、透明な雫が溢れ出てきていた。

 混み上がる欲望の高ぶりに、いつしか孝太の行為に完全に身を委ねてしま
う健史。
 しかし孝太は、寸前のところで手の動きを止めてきた。
「時間はまだたっぷりあるんだ。ゆっくり楽しもうぜ」
「そ、そんな……」
 思わず、困惑の声を発してしまう。
「何だ、もうイキたくてしょうがないのか?」
「………」
「もうここに残ってるのは俺達だけだ。明日は休みだし、少しハメ外そうぜ。
普段みたいなありきたりなやり方じゃ、お前だってもう物足りないだろ?」
 意味ありげな笑みを浮かべつつ、孝太は言ってきた。
「な、何を……?」
 そんな孝太に、健史の表情は強張っていく。
「お前は俺の言われた通りにしてりゃいいんだよ」
 嘲笑う様に、孝太は返してきた。