泉プロ

どこからともなく流れてきた噂。
「三橋はホモで、男好き。」
最初聞いた時は部員全員笑っていたけ。
でも、日頃の三橋の行動が妙にカマくさいこともあって、少しずつ疑いは進行していった。
沖は完全にビビリまくってるし、水谷はドン引いている。
最初はくだらないと受け流していたみんなも、次第に三橋を疑い出すようになった。
そうしている内に、三橋の噂もどんどん過激になっていった。
援交でオッサンとヤッてるとか、空き教室に上の学年の人を誘ってヤったとか。

そしてそれは、本当に突然やってきた。
ハードな練習後、田島がグラ整に使うトンボを三橋に二本渡した。
「わりぃ。今日急いで帰るから三橋俺の分もやってくんね?」
「う うん。わかった。」
三橋は不思議そうな顔をしながらも特に嫌がりもせずトンボを受け取った。
田島はそのまま走って部室に駆け込んでくる。
「ホモは足止めした。今の内に着替えっぞ!」

部員全員一瞬なんの事かとポカーンとしていたが、
すぐにその意味を理解し、疲労感も忘れて黙々と着替え始めた。
俺はいつも通り手早く着替え、部員達が着替えに夢中になってるのを確認すると、三橋のロッカーに素早く一枚の写真とメモを突っ込んだ。
「泉何やってんの?ホモが来る前に帰るぞ。」
しばらく三橋のロッカーを眺めていた俺の肩を、田島が掴む。
振り返ると、帰り支度を終えた部員達が部室から出ようとしている。
三橋を待とうとしているのは一人もいなかった。
花井がドアを開くと、トンボを二本抱えた三橋が所在無げに立っていた。
「あ あの グラ整終わった よ!」
「お、おー!ごくろうさん。じゃ、お先に。」
「え?」
三橋はキョトンとした顔をした。
今日は帰りにみんなでラーメンを食おうと部活の初めに話していた。
当然、「みんなで」には自分も含まれると思っていたんだろう。
急におどおどし始めた三橋を見て、田島がニッと笑った。
「ごめんな、今日みんなでラーメン食いに行くから急いでたんだ。じゃな。」

俺達はそのまま笑いながらラーメン屋に向かった。
去り際にチラッと俺は後ろを振り返る。
三橋はまだトンボを二本ギュッと握りしめて立ち尽くし、こっちを見ていた。
捨てられた犬みたいに寂しげな顔をしている三橋に、俺は他のヤツにバレないよう手を振ってやった。
三橋はすぐにハッとして小さく嬉しそうに手を振り返す。
その表情は、先ほどの今にも泣き出しそうな張りつめた顔ではなく、どこかホッとした顔をしていた。
俺はその顔を見て、満足した。三橋は今、俺だけが救いだったんだ。
きっと三橋はこの後ロッカーの中に入ったアレを見て、泣き出すんだろう。
想像しただけで強い罪悪感と、奇妙な高揚感を感じる。
ごめんな、三橋。
心の中でそう呟いた。

次の日学校に行くと、案の定三橋の顔色が悪かった。
不安そうな顔をして、田島の顔色をチラチラとうかがっている。
俺はそれに無性に腹が立った。
なんで田島の方ばっかり見んだよ。
苛立ちに任せて、椅子の脚をガンッと思い切り蹴る。
近くに居たヤツ全員が振り返ったが、三橋が一番ビビッた顔をしていた。

こっちを向いた三橋は、今度は俺の方をビクビクしながら見てきた。
顔色をうかがうってこういう様子の事か。
あまりにも必死な三橋の様子に、俺はおかしくなった。

三時間目の休み時間、阿部が英語の教科書を借りにきた。
三橋もよく阿部に教科書を借りに行ってる事もあり、二人は普段よく忘れ物をした時貸し借りをしていた。
三橋は阿部の姿を見るなり、必死で英語の教科書を机から引っ張り出した。
机の奥にしまいっぱなしでグチャグチャの教科書に文句を言いながら阿部は借りていく。
いつもなら。
「あっ 阿部君 これっ!」
「あー、わりぃ。いいわ。田島か泉は持ってねえの?」
阿部は三橋が差し出した英語の教科書を一瞥し、周りを見回すと、すぐに俺達の方に声を書けた。
「持ってるぞ。きったねーけど。」
「うわ。ジュース零してあんのかよ。」
阿部は顔を顰めながら、田島の教科書を受け取った。
阿部が今、一番三橋を警戒してるのかもしれない。
三橋がキモいと言うより、バッテリーをやってるから、周りの連中に三橋ネタでからからかわれる事も多いんだろう。
最近それでずっとイライラしているのは知っていた。
三橋は、阿部のこの態度に今までにないぐらい焦燥した顔をしていた。
投球中毒の三橋にとっては、阿部というバッテリーに嫌われるのだけは避けたかったんだろう。
きっと、三橋は今三星時代を思い出してるはずだ。
チームメイトから嫌われ、避けられ、キャッチャーからも嫌われた過去を。

その日の授業中、三橋は時々肩を震わせているように思った。
気のせいなのか泣いていたのか分からない。
でも、きっと不安な気持ちでいっぱいなんだろうと思った。
もう少しだ。もう少し待とう。
俺は三橋の肩を眺めながら、しばらくして机に突っ伏し、眠りについた。

その日の練習の後は、みんな三橋に背を向けて黙って着替えた。
三橋はロッカーに寄り添うようにして居心地悪そうに着替えていた。
もうすぐみんなが着替え終わるという時だった。
俺はわざとらしく、大きな声で言った。
「あれ?俺の朝練用のアンダー知らね?」
「知らねえけど、黒いヤツだよな?」
「どっかに落ちてんじゃねえの?」
「いや、ちゃんと鞄にしまってたけど。」
俺はわざとらしくガサガサと鞄を漁り、みんなにロッカー内に何も無いことを見せつける。
横目でチラッと三橋を見た。
三橋はこれ以上ないぐらい怯えきった顔をしている。
それもそうだろう。俺のアンダーは三橋の鞄の中にあるんだから。
さあ、どのタイミングで言い出すのか。俺はもう一言、三橋を促すような事を言った。
「誰かの鞄の中に紛れ込んでねえ?」
「間違っても汗くさい他人のアンダーなんかしまわねえよ。」
阿部が口端をつり上げてそう言った。
三橋は手を鞄をギュッと握り、壁を向いている。
ほら、早く言い出さないとどんどん言いづらくなるぞ。俺はさらにもう一言言った。
「あのさ、悪いんだけど念のために鞄調べてくんね? アンダーなくなるとかキメエし。」

それぞれが鞄のジッパーを勢いよく鳴らして、中のものを引っ張りだす。
俺は、物を漁る音の中にかすかに混じる三橋の乱れた呼吸音に耳を澄ました。
顔は真っ青で冷や汗が頬を伝っている。
「俺の鞄にはねーけど」
「俺のところも」
「三橋は?」
ジッパーに手をかけたまま硬直してる三橋に、田島が不審そうに言った。
阿部はそれを見てズカズカと無言で近づくと、鞄の中身を勢いよくぶちまけた。
「あっ…!」
「げっ、俺のアンダー!」
「マジかよ!?」
その場にいた全員が、自然と嫌悪感に顔を歪ませた。
チームメイトを見る視線ではない、汚い物を見るような目で三橋を見ている。
三橋は追いつめられた獲物のように怯えきった顔をして首を振った。
「ちが、オレ 取って ナイ!」
三橋の懇願するような声が重苦しい空気を纏った部屋に響く
俺は無言で三橋に近づいた。
「きめーんだよホモ!」
そう言って三橋の股間を二、三度蹴り上げた。
手加減しようと思ってたが、つい本気で蹴ってしまった。
悲鳴すら上がらず、ぐうと呻くと三橋はその場に芋虫の様に丸まった。

部室内にいた全員が股間を押さえて固まる。
俺も正直、三橋の痛みを想像すると今更すくみあがりそうになった。
すぐに我に返った阿部と栄口が慌てて俺の側に駆け寄る。
「泉、気持ちは分かるけど。」
「試合に響いたらマジでシャレになんねえよ。」
「わりい。」
俺は精一杯の嫌悪感の表情を浮かべて憎々しげに三橋を睨み付ける演技をした。
栄口はうずくまって苦しそうに喘いでいる三橋に声をかけようとして、思いとどまった。
そして二、三歩三橋から下がり、顔を背ける。
誰も三橋に近寄ろうとしなかった。
無言でバックを掴み、胸くそ悪そうな顔をして、部室を出て行く。
三橋は死にかけの虫みたいに時折ピクッと動きながらいつまでもそこにうずくまっていた。
「汚ねえ。」
俺はわざとらしくそう呟くと、黒いアンダーを三橋に叩き付け、部室を後にした。
最後にもう一度振り返ったが、三橋はずっと同じ格好でうずくまっていた。

その夜。俺は三橋にメールを打った。
「今日の事で話があるから、明日朝練前に部室裏。」
いつも返事の遅い三橋が、5分も経たないうちにメールをよこした。

「わかりました。ごめんなさい。」

次の日部室裏に行くと、三橋がもう来ていた。
約束の時間よりも10分早い。
目も腫れて真っ赤になっていてちょっと怖かった。
顔色はそれと対照的に真っ青だ。
おそらく昨日一睡もできなかったんだと思う。
カタカタと震える三橋を見て、ちょっとやりすぎたかと思ったが、後には引けなかった。
俺の顔を見るなり、三橋は地面にフラフラと膝を付いて土下座をした。
追い込んだのは俺だけど、これはさすがにちょっと引いてしまう。
三橋にはプライドってないんだろうか。
「ごめん なさ い。あの なんかオレ誤解 されてるみたいで・・。」
三橋は地面に鼻をくっつけたままボソボソと何かをしゃべりだした。
元から小さい声はくぐもってさらに聞こえづらい。
「聞こえねーよ。」
「ご ごめんなさいっ」
棘のある声でそう言うと、三橋は慌てて顔を上げて少し大きい声で謝ってきた。
三橋の髪の毛に、鼻先に、頬に、茶色い泥が付いている。
汚れきった三橋はなんだか奴隷みたいで、本当に征服したような気分になった。
「あの ね、オレ ホ ホモじゃないよ。」
「じゃあ何でお前のバックから出てきたんだよ。」
「そ それは・・・わからない。で、でもオレは ホモ じゃない・・。」

三橋は懸命に首を振った。
予想通りの反応に顔が自然とにやける。
三橋は否定するだろう。自分がホモだって事を。
でも、俺は本当の事を知ってる。
証拠も握ってる。

「見たんだぜ俺。お前が部室でシコってたの。」

その一言で三橋の震えがピタッと止まった。
俺はポケットの中から一枚の写真を取り出した。
「これ、ロッカーに入れてやったの見たか?」
写真に映ってるのは、阿部のロッカーに手を突いてシコってる三橋だった。
阿部の名前を気持ちの悪い声で何度も呼んでいたのを鮮明に覚えている。
あの時の事は何もかも。
独特の匂いも、三橋の感じてる顔も、かすれた声も。
何もかも鮮明に。
反射的に三橋は飛びかかって俺の手から写真を奪おうとした。
俺は簡単に三橋にその写真を奪わせてやった。
「まだ何枚か焼き増しあるから、それはやるよ。」

「やだ・・・。お願い 泉君。」
阿部君に言わないで。
三橋は腫れた目に涙をためて消えそうな声で懇願した。その表情に思わずゾクッとする。
「やっぱホモなんだな。」
「ち ちが・・。」
「ホモじゃ ない。」
三橋は土を指でギギギ、と引っ掻きながらそう言った。
その言い方は自分で自分に言い聞かすようだった。
「じゃあなんで阿部のロッカーの前でシコッてたんだよ。」
「わ わかんな・・で、でも オレ ホモじゃない。」
三橋が頑なにそうつぶやき続くのを聞いて、俺は胃がムカムカしてくるのを感じた。
「お前、ホモなんだろ?男なら誰でもいいんだろ?」
畳かけるように聞いたが、三橋は首を振った。
「ち ちが・・阿部君はとくべつ・・。」
とくべつ。
その言葉で、俺の中の何かの糸がプツッと切れた。
そのまま地面に座り込んでいる三橋の手を掴み、無理矢理建物の影に連れて行き、そこで押し倒した。
三橋は恐怖からか死にものぐるいで暴れたので、抑え付けるのが大変だった。
体格は同じぐらいだし、力も互角だ。
下手したら逃げられてしまう。
「阿部に言ってもいいんだな!」
焦っているせいか思ってたよりでかい声が出て、自分でも驚いてしまう。でも、三橋はそれを聞くとやっと抵抗をやめた。

震えてたまま硬直している三橋のズボンを引き下ろした。
「・・っ!」
チェックの子供っぽいトランクスの隙間に手を突っ込むと、再び三橋が暴れ始めた。
しかし、さっきほど強い抵抗ではない。
弱みを握っているから、三橋は俺に逆らう気はないはずだ。
多分、本能的に体が抵抗しているだけなんだろう。
汗ばんだ手で三橋のチンコをギュッと掴み、夢中でそれを扱き始める。
俺は興奮しきっていて、頭の中に★が飛び交っているような状態だった。
「やだあ・・ お願・・い!やめて泉くん・・っ」
三橋は腕で顔を覆って涙声でそう訴えた。
その声には、かすかに吐息が混じっている。
「お前ホモじゃねえんだろ? だったら男の俺にこんな事されても感じないはずだよな?」
「う うう・・っ」
チンコの先の窪みを親指で擦りながら言うと、三橋は低く呻いた。
かなり乱暴に擦っているのに、三橋のチンコは段々と熱を持ってくる。

そのまま尿道の辺りを親指の先で押すと、三橋は小さく呻いてイッた。
薄い淡泊な液が指先にかかる。
ドロッとした独特の感触に鳥肌が立つ。俺は汚れた指先を三橋の口元に突っ込んで綺麗にするよう言った。
三橋は嫌そうに、それでも従順にその指先を舐める。
「お前やっぱホモじゃん。」
「違 う・・。」
「ホモだろ? こんな風にすぐイッて。男なら誰でもいいんだ。阿部でも、俺でも。」
「違うっ・・!」
三橋がそこで一段と強く首を振ったので、思わず俺は三橋の頬を引っぱたいた。
パン、という乾いた音がして皮膚の薄そうな白い頬が少しだけ赤みが差す。
「ごめ んなさい・・。」
三橋が何の事なのかもよく分かっていないまま、引き攣った声で謝った。
従順な三橋。逆らわない三橋。阿部の事が好きな三橋。
全部見ててイライラする。
「ま、いいや。」
「え・・?」
「阿部には言わないでいてやるよ。」
「ほんと・・?」
「わざわざ言わなくったってもうホモだって思われてるしな。」
意地悪くそう言うと、三橋はうぅ、と悲しそうに呻いた。
「その代わり。」
「?」
「これから毎日俺の言う事聞けよ。」
「い、言うことって・・。」
三橋が怯えた顔をして俺の顔色を伺う。
苛められるとでも思っているのだろうか。確かにそれに近い事をするわけだけど。
「じゃあ、最初の命令。今日ミーティングの後、お前の家行かせろ。」
「えっ?」
三橋は拍子抜け、というような顔をした後小さな声で「い いいよ。」と言った。
三橋はまだ、俺に何されるのかまったく分かっていない。
俺は握りしめた手にじわっと汗が滲むのを感じた。

その日の休み時間。
田島と俺と三橋は席が近いから、席に着いたまま二人で話そうとしても必然的に三人で会話することになる。
しかし、田島は徹底して三橋の方を向かず、俺の方にだけ話しかけた。
昨日のアンダー盗難事件で、田島はさらに三橋への不信感を募らせたんだろう。
ちょっとやりすぎじゃないか、と思うほど三橋は空気だった。

そして昼休みのチャイムが鳴った時、三橋は何か決心したように俺達の机に近づいてきた。
「あ あの!」
田島はチラッと三橋を一瞥した後、また俺の方に顔を向けて話の続きを始めた。
それだけで、三橋の顔色は真っ青になる。
しかし、そのまま席に戻る訳も行かなかったのか、三橋は妙な笑いを浮かべて話しかけてきた。
「あの オレ、今日はお弁当が唐揚げ で・・。」
そこでふと、昔よく田島が三橋の弁当から唐揚げを奪ってた事を思い出した。
これで田島の機嫌を伺っているつもりだろうか。
俺は三橋のその態度にイライラした。

なんで田島なんだよ。

田島は徹底していた。
三橋の声を、まるで聞こえなかったかのようにして、俺に向かってひたすらとりとめのない話を話し続ける。
その不自然な様子を浜田が心配そうにこちらを見ていたが、三橋に話しかける気はないようだった。
三橋は泣きそうな顔をして自分の机に戻っていったが、やがて逃げるように弁当箱を持って教室を出て行った。

ミーティングの時、三橋は端っこの方に座っていた。
端っこの、しかも引っ込んだ場所にいるので最初三橋がいるのかいないのか分からなかったぐらいだ。
配付資料があったが、三橋は取りにもいかず、黙って椅子に座って俯いていた。
それを見た阿部が、乱暴に配付資料を掴み、三橋の膝の上にたたき付けるように置いた。
三橋はビクッと肩を震わせ、おそるおそる膝の上の資料を掴む。
「大事な資料なんだからちゃんと取れよ。」
そう怒鳴って、阿部は自分の席に戻った。
三橋はその資料を握りしめると、急に俯いていた顔を上げた。
さっきよりも顔色がよくなっている。
こんな事でいちいち喜ぶ三橋に、俺はまたムカついた。
それから、こんな隅っこにいても、嫌っていても、ちゃんと三橋の事を見ている阿部にもムカついた。
じっと見つめられていることに気付いたのか、三橋は俺の方に顔を向けた。
しかし目が合うと、三橋は反射的に顔を背ける。
ムカつく。
俺は芯の無いシャーペンをカチリ、カチリと鳴らしながらミーティングの時間が過ぎ去るのを待った。

帰り道、俺はみんなから寄り道を誘われたが断った。
そして空気を読んだのか、一人反対方向へ歩き出す三橋を追いかけ、腕を掴む。
「う お!」
「今日お前ん家行くって言っただろ。」
「う うん。」
「なんで先に帰んだよ。」
「だ、だって・・・。」
だってオレみんなに、と途中まで言いかけて三橋は不意に言葉を詰まらせる。
なんだよ、と顔を覗きこんだ瞬間、三橋はぶわわっと突然目から涙を溢れさせた。
溢れさせるというより、涙が噴きだしたという方が正しい気がする。
「うわっ!」
突然の事に俺は驚いて思わず飛び退いてしまった。
三橋はそのまま鼻をズビズビ言わせると、ついに声を上げて泣き出した。
高校生の男がこんな風に泣くのは初めて見たから、なんて言えばいいのか分からなかった。
溜息をついてポケットに入ってたティッシュを袋に入ったまま押しつける。
以前の阿部だったら中身まで出して顔まで拭いてやりそうだけど俺はそこまではしない。
いつまでも立ちつくしてる訳にもいかず、俺は三橋の家に向かって歩きだした。
三橋もしゃくり上げながら俺の後を付いてくる。
道を歩く他の人たちの視線が痛かった。

三橋の家は誰もいなかった。
両親共遅くまで働いてるって言ってたから、多分しばらくは帰ってこないだろう。
俺は三橋が閉め忘れた玄関のドアを後ろ手に閉め、中に上がった。
三橋はまだ、たまにしゃくり上げながら台所へ行き、いそいそと冷蔵庫から飲み物を取ってきた。
「ジュ、ジュースと お茶がある けど・・・」
「茶。」
三橋はコクリと頷くと、ガラスのコップに二人分茶を注いだ。
そのまま無言で部屋に案内され、俺も黙ってついて行く。
三橋の部屋は特に足の踏み場も無いという事はなかったが、
グシャグシャになった毛布が床の上に落ちていたり、机の上にプリントが山のようになっていたりして綺麗では無かった。
「あ の、今日は。」
何しにきたの?とでも言うように三橋が首を傾げる。
俺はその問いには答えず、黙って立ち上がった。
反射的に三橋の腰が引けたが、構わずその体を押さえつけた。
今朝の事を思い出したのか、三橋が逃げ出そうと必死にもがく。
「命令。服を脱げ。」
三橋はギョッとした顔をして俺を見た。
それに構わず、早く脱げ、と顎でしゃくると三橋は震える手でブラウスのボタンを外し始めた。
白い肌や浮き出た鎖骨が露わになり、思わず触りそうになる手をぐっと握りしめた。
三橋はのろのろとズボンを脱ぎ、パンツ一枚になったところでオレの方を向き直った。
「ぬ、脱ぎました。」
「全部脱げよ。まだ残ってるだろ。」
そう言うと三橋は、心底嫌そうな顔をしながらもパンツに手をかけ、足からそっと引き抜く。
その間に俺は三橋に気取られないように、そっとカバンからデジカメを取り出した。

「そのまま足開いてオナニーしろ。」
感情を抑えた声でそう言うと、三橋は真っ青になって口元を引きつらせた。
「ほ 本気で言ってるの?」
「当たり前だろ。早くやれよ。」
俺はカメラを握る手に力を込めた。
汗で指先がずるりと滑る。三橋に勘づかれないようにしないといけない。
「やらないんなら阿部にあの事言うけど。」
「やっ・・・・・やります。」
三橋は目に涙を浮かばせながら、股間に手を伸ばし、おそるおそると言った具合に扱き始めた。
まどろっこしい緩慢な動作で、なんとも情けない姿だった。
「ちゃんと足開け。」
「は・・い。」
言われた通り、三橋は足を開いた。
最初は怯えていたようだったが、段々と手の動きが大胆になっていく。
息も上がり始め、押し殺した喘ぎ声が時折漏れた。
「はぁ・・・っ、んっ、く・・っ」
「声もっと出せよ。あと、阿部の名前呼べ。」
「い いやっ」
「命令なんだけど。」
三橋は覚悟を決めたように目をつぶり、思うままに声を上げ、阿部の名前を呼んだ。
三橋がすっかり夢中になっているのを鼻で笑い、俺はデジカメをビデオモードに切り替えた。
「あべく ん・・あべ・・くっ・・んあぁっ!」
短い悲鳴と共に、三橋は射精した。

しばらく荒い呼吸を繰り返した後、気だるげな顔をしてこっちを見た三橋は仰天した顔をして跳び上がった。
「いっ いずっ 泉くんっ なっ・・なにっ」
「ホントは写真だけにしようと思ってたんだけど、お前随分夢中になってたからビデオにした。」
「消してっ! 早くっ」
「なんでだよ。一緒に見ようぜ。」
俺は涙目になって訴える三橋を無視して、ビデオの再生ボタンを押した。
小さな画面に、三橋の痴態がいっぱいいっぱいに映し出される。
「やっ・・」
三橋は画面から目をそらそうとしたけど、俺はそれを許さなかった。
無理矢理顎を掴んで画面の方を向かせる。
『あべくん・・っ』
画面の中で、三橋が阿部の名前を呼びながら喘いでいる。
古いデジカメのせいか音質も画質も潰れていて、実物よりも気持ち悪く映っている。
「やだぁっ 止めて!」
「キモいだろ? 阿部の名前呼びながらシコってるお前ってこんなにキモいんだぜ。」
阿部かわいそー。コレ見たら泣くよな。
からかってそう言うと、三橋は俯いて泣きだした。
やめてください。見せないでください。もう許してください。ごめんなさい。ごめんなさい。
そんな言葉を時折交えながら、三橋はしばらく泣いていた。