兄貴

僕の兄貴は高校に入ってからラグビー部に入部した。中学のときは柔道部だったのだが、ドッシリしたガタイを活かせるクラブに入りたいと言ってラグビーに転向した。
それ以来兄貴の風貌が、行動が目に見えて変わってきた。
まず、高校生になって初めてのゴールデンウィーク。散髪屋へ行って坊主刈りになって帰ってきた。僕と同じ部屋を使う兄貴が一気に怖い印象へと変わった。その頃からドッシリというよりはガッシリした体型に変わってきた。さらに筋トレの器具を貯金を下ろしてまでして購入し、僕がゲームをしている横でも平気で息を荒げてトレーニングをするようになった。同時に、服の露出度が高くなってきた。タンクトップや短パンを好んで穿くようになってきた。それだけではない。胸板が分厚くなってきているのがわかるし、髭も濃くなってきた。急に兄貴が「男」に目覚めたかのようだった。
行動も変わってきた。まず、「僕」と言っていたのが「俺」に変わった。以前は「トイレ」と言っていたのが「ションベンしてくるわ」とか「ウンコ出そう」とかふつうに汚い言葉を吐くようになった。
僕は柔道をしていた頃の兄貴を思い出した。親切で誰にでも笑顔。質実剛健という言葉がピッタリだった兄貴。今では僕も怖くて口を利けなくなってしまった。
そんなある日――。
僕が塾から帰ってくると、お母さんはソファでうたた寝をしていた。
「お母さん! こんなトコで寝てちゃ風邪ひくよ?」
「あぁ……おかえり智章……。そうだね、こんなトコで寝てちゃダメね」
「そうだよ。さっ、早く寝なよ」
「そうねぇ……智章もサッサとお風呂入って寝なさいよ?」
「うん。わかってる」
「じゃあね、おやすみ……」
「おやすみ♪」
母を寝室まで見送り、僕は塾のカバンを置きに部屋へ向かった。
「あれ?」
ドアが閉まっている。今は7月。暑くてドアなんて閉めないのに。僕たちの部屋はクーラーは付いていない。兄貴はいったい締め切って何をしているのだろう?
「……?」
ドアにそっと耳を当ててみると……。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ……!」
荒い息遣い。また筋トレをしているのかと思って耳を話そうとした瞬間――。
「あぁ……智章!」
「!?」
驚いてもう一度、ドアに耳を当てた。

「あぁ……愛してるぜ、智章……!」
間違いない。兄貴は僕の名前を呼んでいる。いったい何をしているのか。
「あぁ…ンンッ……ハァ……ハァ……」
妙な緊張が僕を包んだ。何か、何か聞いてはいけないものを聞いている。
「んんん~アアッ!! イ、イクッ! ウウッ!」
しばらく、沈黙が続いた。
「……ハァ……ハァ……」
また、兄貴の荒い息。
「ヘヘッ……智章に俺の汁を飲ませてやりたいぜ……」
ゾクッとした。
間違いない。
兄貴は……兄貴は!
俺は慌ててリビングへ引き返した。緊張のあまり、心臓がバクンバクン鳴っている。
急に、ガチャッとドアが開いた。
「遅いなぁ……今日しかチャンスはないのに」
「!?」
俺は机の下にとりあえず隠れた。何が起こっているのかサッパリわからない。よく考えてみれば、
いつも1時すぎまで起きている母が今日は10時という異様に早い時間に眠りこけてしまった。もしか
して……。
そっと顔を出し、ゴミ箱へ近づく。
「……!」
睡眠薬が捨ててあった。
「なんで!? なんで!?」
俺は恐怖と焦燥に駆られて冷や汗が出てきだした。
「ん……?」
兄貴の声がする。
(しまった!)
靴を隠しておくのを忘れたのだ。
「ト・モ・ア・キ☆」
兄貴の声がした。

ギシッ……ギシッ……。
兄貴は身長186㎝、体重84kgの巨漢だ。とても高校生とは思えない体つきをしている。
そんな兄貴にかなう者などこの近所にはいない。僕はそれが誇りだった。だが、今はそ
の兄貴の存在が恐怖以外の何者でもなくなってしまっている。
ギィィィッ……!
リビングのドアが開いた。僕の心臓は嫌でも高鳴る。
「智章……。俺だよ、浩司兄ちゃんだよ?」
わかっている。兄貴だっていうことは。でも、今までの兄貴じゃない。

いつだったか、僕はまだ性知識がない頃に兄貴に言われた。
「智章は、オナニーって知ってるか?」
確か……兄貴が中1、僕が9歳だから小学校3年生のときだ。
「ううん! なにそれ?」
「そっか……。いやな、兄ちゃんぐらいになれば嫌でもわかるよ」
「そうなの?」
「あぁ。その意味がわかったら、兄ちゃんと一緒になろうぜ?」
「うん!」
僕は良くわからずにてきとうに返事をした。

一緒になる――。
きっと、アソコを僕のアレに――!
(嫌だ! やだ、やだ!)
力では兄貴にかなうはずなどない。僕は身長165㎝、体重58kgしかない。間違いなく――
犯られる!
何とかして逃げなければならなかった。
兄貴が変貌した頃、友達に聞いた。兄貴は通っている高校の影の支配者として君臨している
らしい。兄貴に襲われた男は無数だという。その中に、友達の兄ももちろんいた。友達は怒ら
ずに僕に言ってくれた。
「弟を犯るための練習だ……って」
その日がとうとう来たのだ。

机の下に隠れていた僕の目の前を、兄貴の太い足が通り過ぎる。すね毛でボウボウの足。筋肉質で、
まるで丸太のように太い足だ。噂によれば、キック力はラグビー部一らしい。
「智章? 帰ってるんだろ? 出て来いよ……」
兄貴が和室の方へ向かった隙に、そっと玄関へ向かった。気配を消すのは昔から得意だった。バレっこ
ない。バレッこない。僕はすっかり安心して靴を履いてドアノブに手をかけた――瞬間、背後に大きな影。
「……!」
振り向くと。
全裸の兄貴がいた。
「お・か・え・り!」
僕はドアを急いで開けて家を飛び出した。夜10時。15階建てのマンションに人の気配はまったくない。
僕は死に物狂いで走り、エレベーターホールへと駆け込んだ。
兄貴の気配が近づいてくる。
「お願い! 早く! 早く来て!」
僕はエレベーターのボタンを連打した。
「早く! 早く!」
13階に停まっていたエレベーターがやってきた。僕は中へ入ると1階のボタンを押し、「閉」のボタンを
押した。
「ま、間に合った……」
ギギギギギギギギギッ!!
「え!?」
異常音がしてエレベーターが止まる。さらに、閉まったはずのドアが徐々に開いていく。その向こうには
――不気味な笑みを浮かべた兄貴がドアをこじ開けていた。
「うああああああああ!」
兄の怪力にドアが徐々に開く。
「あああああ! や、やだ! やだ! 動け、動けバカ!!」
僕がドアを蹴り飛ばすと、エレベーターは半ば強引に動き出した。
「た、助かった……」
僕は1階へ降りるととにかく、マンションの敷地から大急ぎで飛び出した。

「はぁ……はぁ……」
僕は近所の公園へやってきていた。よく兄貴と小さい頃に遊んだ公園。あの頃の兄貴は優しくて、
いじめっ子に僕がやられていたら、問答無用でぶっ飛ばしてくれた。いったい、兄貴に何があったの
だろう。だが、兄貴は急変した。3月31日までは優しい兄貴だった。
4月1日。異変は突然、始まった。
「バッカやろぉ! こんなマズい飯が食えるか!」
それはいつもの夕食の時間だった。母と僕、兄貴の3人で夕食。父はいつも一人遅れて遅い時間に
夕食を摂るので、これはいつもの光景だった。だが、それは兄貴が席へ付いた瞬間にぶっ壊れてしま
った。兄貴が大暴れしだしたのだ。ダイニングテーブルをひっくり返したのを発端に、兄貴はリビングルームを中心に破壊活動を始め
た。ダイニングテーブルからとんかつやポテトサラダ、ほうれん草のおひたしといった母の手料理す
べてが吹き飛び、台所の洗い場へ、床へ、冷蔵庫の近くへと吹っ飛んでいく。食器がけたたましい音
を立てて割れ、同時に母の叫び声が響く。
「うるせぇ! クソババァ!」
自分のお気に入りだったナイキのシャツを引き裂き、上半身裸になった兄貴は僕へ迫ってきた。
「あんだぁ、智章? 俺に文句でもあんのか?」
そして――。
気づいたら病院だった。母も頬にガーゼを付けていた。目も腫れている。
「大丈夫? トモ……」
母はそういうと、俺の頭をやさしく撫でてくれた。
「兄ちゃん……どうしちゃったの?」
「わからないわ……。あなたを殴り飛ばした後、お母さんも殴られて……気づいたらお兄ちゃんはい
なくて……」
僕も母も、ただ涙を流すばかりだった。
「反抗期だろう」
父はそう言った。
「でも、そんな爆発的に起こるものかしら」
とりあえず、兄貴は警察で一晩泊まることになった。
「わからない……。これだけは本人に聞いてみなければ……」
「そうね……」
この日を境にして、僕の家は少しずつ壊れていった。

とにかく、今はここでジッとしているしかなかった。ここは公園の茂みの中。けっこう深い茂みなので、
兄貴に見つかることもないだろう。夜が明けてきたら母も目を覚ますだろうし、兄貴も全裸で外へ出てくる
はずなどない。僕はそう思っていた。
「ここでいいんじゃねーの?」
「!?」
その声に驚いて思わず顔を出してしまった。しかし、声の主は兄貴ではなかった。ちょっと不良っぽい人。
よくみると、僕の中学の制服を着ている。あれは――。そうだ、中3でちょっと悪ぶっている榊 恵介とその
取り巻きだった。
「ったくダリーんだよなぁ。学校で煙草吸うなとか。どこで何しようと俺らの勝手じゃん」と恵介。
「ホントっすよねぇ。先生だってホントは俺らのこと怖いくせに」と取り巻きの――あれは僕と同じクラスの
友成 和也だ。他に3、4人いるようだったけど、誰かは見えなかった。
兄貴も怖かったけど、別の意味でこの集団も嫌だった。カツアゲやシンナーも平気でやっていると聞いたこ
とがある。僕は結局、30分くらい茂みでジッとしていた。
「おい、見ろよアレ!」
恵介の声がしたので、僕も茂みの中からこっそり顔を出してみた。
「……!」
兄貴だった。あの顔はキレる寸前の顔だ。やっぱり全裸で、恐ろしい筋肉の鎧をまとった巨漢が恵介たちに
近づく。
「おい、お前ら」
ドスの利いた声。兄貴の怒りは最高潮だ。爆発したら、たとえ恵介たちでも終りだ。
「逢沢 智章を見なかったか?」
「知らねぇよ! ってか何だお前? チンポぶら下げて何の自慢?」
「……誰に口を利いている?」
「お前だよ、お・ま・え!」
その直後、和也の悲鳴が聞こえた。

「うわああああああ!」
和也の体は兄貴によって軽々と宙に持ち上げられていた。
「フゥゥンッ!」
兄貴は一瞬で和也のミリタリー系の服をビリビリに引き裂き、上半身を裸にさせてしまった。さらに
ズボンにも手をかけ、ビリビリビリビリッ!と一瞬にしてトランクスもろとも引き裂いてしまった。同
時に兄貴のチンポは巨大化し、ビクンビクンと脈打ち始めた。
「ぎゃぁっ!?」
和也はそのまま地面に体を押し付けられ、身動きが取れなくなったようだった。
「たっ、助けてください! 恵介さ……うっぎゃあああああああああ!」
兄貴の巨大チンポがズブズブと和也のケツに入っていく。兄貴は快感を覚えたようで、喘ぎ声を上げ
ながら何回もピストンする。
「あ……あぁ……あああ……」
恵介も、残りの3人も恐怖のあまり後ずさっている。和也はもう失神しているようで、ピクリとも動
かずに口からヨダレを垂らして倒れていた。
「グァアアアッ!」
恵介の隣にいたヒョロヒョロが兄貴のタックルで吹き飛んでいた。そのまま服を破られ、和也と同じ
ように兄貴の餌食となっていった。
兄貴の胸に、腹に、頬に精液が付いている。兄貴は頬に付いたそれをベロリと舐め、恵介と残りの2
人に向かって歩き出した。
「たっ、助けてください! お願いします!」
「逢沢 智章はどこだ?」
「しっ、知らないです! すみません!」
「知らない……のか?」
「ごめんなさい! 知りません! すいません!」
兄貴は3人に背を向けて立ちすくんだ。ホッとした様子の3人。僕もこれ以上犠牲者が出ないと思う
と心の底から安心した。しかし――。それは兄貴の声でかき消されてしまった。

「役立たずめ」

「ギャアアアアアアアアア!」
恵介の右にいたチビが、兄貴の丸太のような腕に首を締め付けられ、失神してしまった。一瞬の出来事だ。
そのまま兄貴はチビを抱き上げ、ズボンを剥ぎ取り強引にチンポを挿入した。
「ああああああああああああ!」
チビは小太り気味だったので、汗をダラダラ流しながらジタバタと体を動かしていたが、しばらくすると
和也同様、動かなくなってしまった。残る恵介とちょっとガタイのしっかりした男の子は、抱き合って震え
ている。
「さぁて……どっちから調理しようかな?」
「あ……あぁ……あああ……」
ガタイのしっかりしたほうが恵介の前に立ちはだかった。
「恵介さんだけは見逃してやってくれ」
「晃平!」
「早く! 逃げてください!」
けれども、恵介は恐怖で腰を抜かして動けないようだった。周りにはバタバタと3人が倒れている。誰も
動かない。動けないのだろう。
(僕のせいで……?)
和也も恵介も、晃平というヤツも小太りも……僕のせいで兄貴に犯されて……。何もしていないのに?
「早く!」
晃平が叫ぶと同時に、
「待って!」
気づけば、僕は茂みから飛び出していた。