Bruder

雲一つない鮮やかな晴天になった、五月下旬の日曜日。

よく焼いたトーストにスクランブルエッグとレタスを挟み、三角に切ったサンドイッチ

と、昨晩の夕食の残り物である野菜サラダ、それに冷たい牛乳が、今朝の桐原家の

朝食メニューだった。

 TVのニュース番組を見ながら朝食を食べ終え、紙ナプキンで口を拭った桐原真琴は、

先週買ってきた林檎が冷蔵庫に残っているのを思い出した。そろそろ梅雨も近いだけに、

早いうちに食べてしまわないといけない。

「思い出して良かったぁ……」

 一つだけ残っていた林檎を出し、器用に皮を剥いていると、兄の淳一が二階から下りて

来る音がする。

「何だ、またパンかよ……。今日こそ、米が食えると思っていたのになぁ」

「文句言うなら、もっと早く起きて、自分で作ってよ。今日の帰りは遅くなるから、晩御

飯は兄さんが作って」

「何だ、どこか遊びに行くのか。もしかして、一年生のくせに、もう彼女が出来たんじゃ

ないだろうな」

 本気で心配する顔で問い詰める兄の様子が面白くて、真琴はケラケラと陽気に笑い

ながら、皮を剥いて八つ切りにした林檎を皿に並べる。

「そんなんじゃなくて、部活だよ。そろそろ大会が近いから、遅くまで練習なの。一年生は

後片付けもあるし」

「休みの日まで部活か。大変だなぁ……。中学に入った途端、やけに忙しくなったよな」

「人の事ばっかり心配してないで、兄さんも頑張ってもらわないと。今年は受験生なんだ

からさぁ」

「やめろよ、母さんみたいな言い方……」

 真琴が注いでくれたオレンジジュースをゴクリと飲み、淳一は首をすくめてみせる。

 つい最近までは本当に子供だった真琴も、すっかり大人びた口をきくようになっていた。

どちらかといえば物事を適当に考え、「何とかなるさ」が口癖の淳一は、几帳面な性格の

弟に色々と生活の事で注意され、そこから兄弟喧嘩になる事もある。しかし、どんな時

でも、淳一にとっては可愛い弟である事は変わらなかった。

 真琴が産まれた時から十二年、同じ屋根の下で共に育ってきた二人だが、地元にある

公立校に通う中学三年生である淳一と、この春から隣町の私立中学に入学して、練習の

厳しいテニス部に入部した弟とは、それぞれ生活リズムの異なる日々を暮らすように

なっていた。こうやって顔を合わせるのも朝食の時と夜の短い時間くらいだが、それでも

兄弟の仲の良さは以前と全く変わっていないように思う。

しっかり者の弟と、とぼけた性格ながら優しい性格の兄という組み合わせが、上手くバラン

スを保っているのかもしれない。

 本来は両親と兄弟の四人家族である桐原家だが、大手電器メーカーに勤める父が今年

から関西に単身赴任をしており、その生活面の手伝いをする為に、母も週に一度、父親の

元に通っている。今週は色々と面倒な事務手続きがあるそうで、母は一昨日から家を空け

ていた。弟の真琴が家事を得意にしているので、それほど大きな支障は生じていないもの

の、まだ中学生である兄弟だけを家に残していくのだから、何とも無責任というか、いい加

減な母親だ。

 そんな両親の放任主義的が肌に合う淳一は不平も言わず、逆に親のいない生活を伸び

伸びと満喫出来ていたが、繊細な心を持つ弟の事は常に気になっていた。表立って不満な

どは口にしないが、内心では不安と寂しさを抱えているに違いないと思う。決して頼りがい

のあるとはいえない兄だが、家庭を守る長男としての自覚も芽生えつつある淳一は、短い

間ながらも、両親の居ない時は弟の心の支えになれればいいと思っていた。

 そう思いつつも、実際は何の役にも立っていないのが、悲しい現実ではあるのだが。
まだ寝ぼけ眼のままでパンを囓っている兄を残し、真琴は家を出た。

 ワインレッドのネクタイを締めた白い長袖ワイシャツ、モスグリーンと濃紺のチェック柄の

スラックスという制服は、まだ冬用のものだ。太陽の光が強くなり始めた最近では少し暑く

感じるが、まだ半袖に切り替えるには、今年の気候では早すぎるような気もする。真琴の

中学は校則が厳しい事で県内でも有名で、暑いからといって制服を着崩す事は許されない

から、ワイシャツのボタンを外したり、袖を捲ったり、ネクタイを緩めたりする事は出来なか

った。
 しかし、兄と同じ公立中学に進む予定だったのに、両親に無理を言って受験させてもらった

私立中学なのだから、校則の厳しさくらいで文句は言えない。

 中学に入学した時から始めたテニスだが、もともと幼い頃から運動センスに優れていた

真琴は、みるみるうちに腕前を上達させ、今では同級生の中でも頭一つ抜け出した感のある

存在になっていた。しなやかに激しく動き回り、華麗なフォームからボレーやスマッシュを放つ

姿は、まさに「蝶のように舞い、蜂のように刺す」という喩えが相応しい。

 背も低く、まだ筋肉も付き切れていない華奢な真琴の身体だが、その腰回りは引き締まり、

ヒップは愛らしく小振りで、恵まれた手足はスラリと長く伸びている。彼がテニスの練習をして

いる姿を見ているだけで、同級生の女子が思わず溜め息が漏らしてしまう程に、真琴は

端正な身体の持ち主だった。

 それに加え、小さな卵形の顔立ちに大きな目、鼻筋の通った高い鼻に控え目な口という、

まさに美少年といえる美貌を持ち合わせているのだから、まだ入学して二か月足らずだという

のに、既に学校中の女子生徒の間で話題になっているというのも無理はない。

 入学した直後から、色々な運動部から熱心な勧誘が行われ、激しい争奪戦が繰り広げられ

たが、最終的に真琴が選んだのは、部員も少なく、活動規模も小さなテニス部だった。まだ

部として設立されてから数年しか経っておらず、顧問の教師すらいない状態の弱小チーム

だったが、部員達が自主的に練習メニューを考え、必死に上達しようとしている熱意に、

真琴は心を打たれたのだ。何とか試合で結果を出し、学校側に自分達の存在を認めさせよう

としているテニス部員達の目は輝いていて、即戦力となる真琴に対しても、期待と信頼に満ち

た熱心な指導をしてくれる。先輩部員からの厳しくも優しい愛情に包まれ、真琴は部活動の

楽しさを伸び伸びと満喫していた。

 今日も、日曜日にも関わらず、来月初旬にある大会に向けての最終調整をしようと、テニス

部の先輩達は意欲満々である。何とか補欠メンバーに滑り込んだばかりの立場でしかない

真琴だが、先輩部員の気合いに触発され、自然に気を引き締めていた。

 平日とは雰囲気の違う電車に揺られて十数分、隣町の駅で下りて改札を出ると、すぐ目の

前に、由緒正しき聖林学院の正門がある。重厚な構えの門と、そこから奥に続くポプラ並木を

抜けた真琴は、校舎に向かう石畳の道から脇道に逸れ、校庭の脇にあるクラブハウスを

目指した。

 休日なので、校内には人気は無く、生徒達の出すトーン高い声が騒がしく響いている平日

とは全く別空間だ。まるで人里離れた廃墟に紛れ込んでしまったかのような錯覚が起きて、

少し不気味な感じがした。

「おはようございまーす」

 クラブハウスの扉を開き、挨拶をした真琴の声だけが、静まりかえった廊下に響き渡る。

更に奥へと早足で歩きながら、真琴は少しばかり不安になってきた。いくら休日とはいえ、

あまりにも静かすぎる気がしたのだ。

 真琴も時間に余裕を持たせて家を出てきたつもりだが、練習の準備をする為、他の一年

生が誰か先に来ていてもおかしくない時間だ。たとえ部室に居るとしても、音が漏れ聞こえ

てきたり、人の気配がしても良さそうなものだった。

 ところが、練習開始一時間前だというのに、テニス部の部室の方からは物音一つ聞こえ

てこない。

 もしかしたら、練習の時間を間違えて来てしまったのか。

 それとも、何かの理由で今日の練習は中止になったのではないか。

 胸に渦巻く不安を打ち消したい一心の真琴は、クラブハウスの一番端にあるテニス部の

部室に向かう足を一層早めた。

「あっ……」

 テニス部の部室の扉が半開きになっているのが見えると、真琴は安堵の溜め息を吐いた。

やはり、誰かが先に来ていたのだ。

「おはようございまーす!」

 いつも通りに元気な声で挨拶をしながら部室に入っていった真琴だが、なぜか室内には

部員の姿は一人として見当たらなかった。

「あれっ……おはようございます」

 慌てて部室の内外に問い掛けてみるものの、応答は全く返ってこない。

「変なの……」

 もしかしたら、他の一年生は集合時間よりも早く来て、もうテニスコートで練習の準備を

始めているのかもしれない。コートの整備や器具の整備など、一年生が任されている仕事は

多い。

 そう考えた真琴は、急いで着替えを始めた。いつもはジャージ姿で練習しているのだが、

大会が迫っている最近では、ちゃんと試合用のユニフォームを着て、より実戦に近い形での

練習を始めている。

 背中に「聖林学院」の文字が入った白いポロシャツと、スクールカラーであるモスグリーンの

ショートパンツは、テニス部員達が自分達で資金調達して買い揃えたユニフォームで、大会で

団体戦と個人戦に出場する数人しか手にする事の出来ない貴重なものだった。一年生でユニ

フォームを着る栄誉を授かっているのは、真琴ただ一人だけだ。実際に試合に出る可能性は

低いかもしれないが、気持ちだけはレギュラーの先輩達に負けないようにしなくてはならない。

「……よし」

 壁掛けの鏡に全身を映し、気合いを入れ直した真琴が、部室から廊下へと足を踏み出そうと

した時だった。

「……っ!」

 いきなり背後から覆い被さってきた途方もない力が、真琴の上半身を羽交い締めにした。     

「ぐっ……ぐぐぐっ!」

 必死で声を振り絞り、精一杯の悲鳴をあげた真琴だが、その口からは掠れた声しか

出なかった。何が起こったのか考える余裕も与えられず、いきなり太い腕が巻き付いて

きて、細くて長い首を締め上げられた。

「げ、げふっ……」

 死に物狂いで暴れ、何とか呼吸する隙間を確保しながら上を見上げると、自分を締め

あげている男の顔が視界に入った。

 それは、坊主頭で眉まで剃っていて、顔面に毛が一本も無いタコ入道のような男だった。

鉄棒のように硬い腕で締め付けている真琴の顔の上で、薄ら笑いを浮かべながら

舌舐めずりしている。全く見覚えのない顔だ。

 首を締め付けている腕は真琴の太腿と同じくらいの太さがあり、そこから繋がる肩から

胸板までは、着ている白いTシャツの上からでも分かる程に筋肉の鎧で包まれている。

 男の不気味な笑いに見下ろされていると、恐怖のあまり、真琴の全身から一気に力が

抜けていった。腕も脚もガクガクと震え、抵抗する意志すら抜け落ちていくのが分かる。

「ヘヘヘっ……」

 だらしなく笑う男の欠けた前歯から唾液が滴り落ち、真琴の額を濡らす。それを汚い

とか気持ち悪いと感じる余裕さえ、真琴には残されておらず、ただひたすら男の腕から

逃れたいという事だけを願っていた。

 おそらく、真琴が部室に入ってくる前から、そして着替えている間も、ずっと男は部屋

の中に隠れていたのだろう。それにしても、大して広い部屋でもないのに、真琴に気配

一つ感じさせず、どこに潜んでいたのか。

 少し力を加えただけで楽に折れてしまいそうな細い首を締め付けたまま、男は軽々と

真琴の身体を抱え上げた。そのまま、部室の中央に置かれた長方形の長机へと乱暴に

押し倒し、体重を浴びせて抱き付いて来る。

「な、何を……やめろよっ!」

 必死に両手両足を振り回して抵抗すると、突然、右足に手応えがあった。

「ぐあっ……」

 真琴の身体から離れた男が、股間を両手で押さえた姿勢でヨロヨロと床に跪いた。

無我夢中で蹴り続けた真琴の足が、偶然にも男の股間を捉えたのだ。

「ひ、ひぃっ……」

 首を押さえ付けていた太い腕が離れ、やっと普通に呼吸が出来るようになった真琴は、

慌てて息を吸った。床に倒れて悶絶する男に目をやり、思わず声を掛けそうになったが、

自分に襲いかかってきた不審人物を気遣う必要など無い。テーブルから起き上がると、

急いで部屋の出口に駆け寄った。

「誰か……誰か!」

 ドアから廊下に飛び出した真琴は、声の限りに叫んで助けを求めた。

 しかし、その声に応えたのは、残念ながら救いの神ではなかった。

「あっ!」

 いきなり後ろ髪が引っ張られ、背中から床に倒された。即頭部を強く打ち、激痛と共に

チカチカと火花が舞った真琴の視界に、それを冷たく見下ろしている男の姿が映る。

坊主頭の男とは全く正反対で、骸骨のようにやせ細った顔と身体をしながら、髪だけは

肩口まで長く伸ばしていた。部屋の中には、もう一人隠れていたのだ。

 新たな恐怖に襲われ、身を丸くして震え上がる真琴を強引に立ち上がらせた骸骨男は、

無言のまま、横抱きにした真琴の身体を再びテーブルの上に載せた。

「な、何するんだよっ!」

 先ほどの再現を狙い、またも脚を蹴り上げ続けた真琴だが、この男には坊主頭男の

ような隙は見られず、あんな幸運も二度は続かない。そんなに強い腕力ではないものの、

人間を捩じ伏せるコツを掴んでいるような骸骨男によって、両腕を万歳の格好に広げら

れ、テーブルに押さえ込まれてしまった。

「おい、手伝えよ」

 骸骨男が初めて口を開くと、まだ痛そうに股間を手で押さえたままの坊主頭が立ち上

がり、真琴の頭の方に回った。骸骨男が押さえ付けている細い手首に素早くロープを

括り付け、左右同時に引っ張ると、それに合わせて真琴の背中と尻がテーブルの表面を

頭上方向に滑っていく。

「あっ、ああっ……」

 あっという間に両手の自由が奪われていく状況にも、真琴はどうする事も出来ず、ただ

ガクガクと身体を震わせるばかりだ。両手首に巻き付いたロープはテーブルの脚に繋が

れ、完全に固定されてしまった。

「い、痛い……」

 訳も分からぬまま、万歳をさせられている手に力を込めて暴れようとするが、両手首と

テーブルを繋いだロープは硬く張り詰めていて、ほとんど動かせない。それでも抵抗を

続けながら、足元の方に立つ二人の男達を見た。

 肉体労働者のように肌が浅黒く、筋骨逞しい坊主頭の男。

 逆に色白で、痩せこけた身体をした骸骨顔の男。

 どちらの男も、学校という場所には似つかわしくない、いかがわしい雰囲気を漂わせて

いた。

 物騒な世の中になってきた最近では、ほとんどの小中学校では、校内への不審者の

無断侵入を防ぐ対策を練っている事が常識になっている。この聖林学院でも、正門への

監視カメラ設置や警備員による定期巡回という態勢をとっているはずなのに、この男達は、

どんな手を使って侵入してきたのだろうか。

「ふふっ、なかなかの上玉じゃねぇか」

 坊主頭の男がテーブル上に横たわる真琴の全身を見回し、特にショートパンツから

伸びる太腿を眺めながら、ニタニタとイヤらしい笑いを浮かべた。

 そんな相棒を横目で冷たく睨む骸骨男は、美少年が無防備に縛られている姿を前に

しても、まるで関心が無いかのように冷静だ。

「のんびり鑑賞している暇はないぞ。ヤリたいなら、さっさと済ませろ」

「ふんっ……言われなくても、喜んでヤラせてもらうさ」

 重厚な身体にも関わらず、恐ろしく身軽な坊主頭の男は、テーブルの上に鮮やかに

飛び乗ると、真琴の腰の上に馬乗りになった。

「な、何だよ……」

 視界全体に坊主頭の男が立ち塞がり、たちまち表情を強張らせた真琴は、勇気を

振り絞って男を睨み付けたが、男は全く怯む様子は無い。いきなり無骨な手でポロ

シャツの裾を掴んで捲り上げ、華奢なウエストから腹、そして、ほぼ真っ平らの胸板

までの白い柔肌を一気に晒け出してしまった。

「や、やめろ……何だよっ!」

 自由に動く脚を懸命に振って暴れ、のしかかる坊主頭男を振り落とそうとするのだが、

両手を縛られているうえ、男の重い尻と太腿が腰をガッチリ挟んで固定しているので、

上半身は身動きすら自由に出来なかった。捲られたシャツを戻そうとして腕を手前に

引くが、縛られた手首にロープが食い込むばかりで、晒された身体を隠す事など無理

だった。男に裸を見られても大して恥ずかしくはないものの、ニヤニヤと笑いながら

裸身を見つめる坊主頭の男の視線が不気味で、ジワジワと湧き上がってくる恐怖感が

背筋を震わせる。

「へへっ、美味しそうな身体しやがる……」

 イヤらしい視線で十二分に半裸体を視姦し尽くした坊主頭の男が、いきなり立ち上が

った。飛び乗った時と同様に軽い身のこなしでテーブルから飛び降りると、今度は

ショートパンツに手を伸ばした。ホックとボタンを器用な指で外し、ファスナーを引き

下ろすと、その内側から白いブリーフが覗き見え、男達の視線を集める。

「うひっ……」

 気色悪い声で嬉しそうに笑う男は、何の躊躇いも無く、真琴のショートパンツの腰に

手を伸ばすと、下に穿いているブリーフも合わせて勢い良く毟り取った。息を詰まらせ、

声にならない悲鳴をあげた真琴が暴れて抵抗するのも関係なく、一気に足首の方まで

引き摺り下ろしてしまう。

「あ、ああっ……」

 同じ事を同級生にやられたら、きっと怒り狂っていたに違いない真琴だが、こんな正体

不明の男達に、こんな異常な状況で取り囲まれ、すっかり縮こまってしまった喉からは

抗議の声すら出せず、まるで女の子のように震える事しか出来なかった。まだ子供から

少年へと成長していく途中の、筋肉の薄い下腹部から太腿にかけてが、青白い蛍光灯の

光の下に晒け出されてしまい、ほとんど産毛でしかなく、一見しただけでは生えていない

ように見える恥毛と、その中心で力無く萎んでいる肉棒は微かに震えている。胸の上まで

捲り上げられたポロシャツと靴下は残されているものの、ほとんど全裸にされたも同然

だった。

「ひひひっ、やっぱりガキの裸はいいもんだな……」

 真琴の裸身を舐め回すように見つめる坊主頭男に、骸骨顔の男が再び釘を差した。

「時間が無いぞ。じっくり観察するのは、また今度にしろ」

「ふんっ……情緒ってもんを知らねぇ野郎だな、お前は」

 不満そうに鼻を鳴らした坊主頭の男は、真琴が慌てて固く閉じ合わせた脚に手を伸ばす

と、張り詰めた太腿に沿って野卑な指を這わせ、その根元へと近付けていく。

「ひっ……」

 男が男を襲うという行為など理解出来ない真琴だが、とりあえず現実に迫っている貞操

の危機は察知していた。男の狙いを阻止しようとして、必死に太腿を閉ざすものの、男の

腕力は並大抵ではない。膝から内腿に手を捩じ込まれ、力任せにグイッと広げられると、

非力な少年の白く滑らかな太腿は、いとも簡単にこじ開けられてしまった。

 絶望感を感じる暇も無く、たちまち男の指が股間へと伸びてきた。肉棒の付け根に太い

指先が触れ、軽く撫でられただけで、真琴は生きた心地もない。初めて他人の指に触れ

られ、なぞられる汚辱感に心臓の鼓動は高鳴り、背筋にはゾワゾワと粟立つ感覚が

走る。

 ニヤけた笑いを顔に張り付かせながら、縮こまったままの肉茎と陰嚢を大きな手で

包んで揉みしだき、無遠慮に弄り回した暴漢は、抵抗を諦めない真琴の両脚を脇に抱え

込むと、その脚の間に自分の巨体を割り込ませてきた。

「ああっ……」

 真琴の両脚を左右に目一杯広げながら持ち上げた坊主頭の男は、そのまま膝の裏側

を持ち、少年の身体を折り曲げた。脚が顔の上方にまで引き上げられ、まるで赤ん坊の

オムツを取り替える時のような姿勢になる。既にテーブルの脚に繋がれている腕に、折り

曲げられた脚の足首が重ねられ、そんなアクロバティックな格好のまま、両足首と両手首

を縛り付けてしまった。

 テーブルから浮き上がった尻肉は大きく広がり、色白い陰嚢も天井に向けて晒された。

優れた運動神経に加え、柔軟性にも富んでいる真琴の肉体は、こんな無理な姿勢をとら

されても、まだ伸びやかさを失わない。大腿部から足先までの二本の脚線はピンと張り

詰め、綺麗なV字を描いていた。

 まるで幼子のように滑らかな肌の尻丘はパックリと割り開かれ、普段なら決して他人の

目の前になど晒すはずのない窄まりが、無防備な姿で剥き出しにされる。

 いくら美少年の尻とはいえ、ごく一般的な性癖を持つ男なら、同性のアヌスを見て感じる

のは、せいぜい嫌悪感くらいだろう。

 しかし、坊主頭の男の反応は明らかに違った。無駄な毛など一本も生えていない、まだ

子供のままの脚や尻、そして性器を観察した男は、尻肉の内側で羞じらい震える肛穴を

見ると、その自制心は瞬時に崩壊したようだ。ヨダレを垂らさんばかりに唇を尖らせ、

真琴の尻の割れ目に顔を埋めると、息を荒げながら伸ばした分厚い舌先を少年の無垢な

アヌスに押し当て、顔ごと上下左右に揺すって舐め始めた。

「ひいっ……ああっ!」

 羞恥の部分を晒け出されただけでなく、そこを舐め回される汚辱感に、真琴は全身の

血が逆流するような思いだった。男に対する怒りや反発心を見せるどころではなく、

そんな場所を他人に舐められる事への激しい違和感と、そんな場所を舐めてきた男に

対する驚きで、もはや頭の中は何が何だか分からない混乱状態に陥っている。苦しげに

歪む顔を紅潮させながら、夢中で腰を振り、尻を捩って、何とか男の顔から逃れようと

抵抗を試みる真琴の目尻からは涙が浮かび、部室の天井が揺れながら滲んで見える。

「こりゃあ、上肉のケツだ。可愛いのはツラだけかと思ったら、こっちも綺麗なもんだぜ」

 嬉しそうに唸った坊主頭の男は、真琴の尻肉を更に強く割り開き、今度は舌の腹から

先端までの全体を使って、既に唾液で濡れる秘穴をベロリと強く舐め上げた。

「ひあぁぁっ!」

 絶叫した真琴の背筋が、硬直して大きく反り返る。この気味悪い舌から一刻も早く逃れ

たい気持ちで、真琴の神経の端々までが戦慄し切っていた。

「やめて……もうやめて……」

 苦しそうに訴える真琴の声など全く耳に入らないのか、坊主頭の乾いた唇は尻丘の

内側を這い回り、ヌメヌメとした舌が恥穴の表面を擦り立てる。そんな手荒い凌辱に逆らう

ように、真琴の脚は、宙で闇雲に揺らいだ動きを見せた。

「ああっ……あうっ……」

 どんなに抵抗しても空しく、自分の指で直に触れた事すらない器官が、暴漢の唾液に

塗れていく。どんな少年であっても悲鳴をあげるであろう恥辱は、特に潔癖な性格の少年

には、とても我慢出来るものではなかった。この先、何をされるのか分からないという危惧

よりも、恥部を這い回る舌や唇を一刻も早く退けて欲しかった。「へへへっ、柔らかくなってきたかな」

 真琴には気が遠くなるほど長く感じられる時間が過ぎ、坊主頭の男は、やっと真琴を

抱えていた手を離し、尻に埋めていた顔を離した。白い尻がテーブルに下ろされ、冷たい

金属の感触が下半身に伝わる。

 ところが、真琴には一息つく暇すら与えられなかった。

一度は机から下りた坊主頭の男だが、ズボンとトランクスを脱ぎ捨てて下半身裸になると、

真琴の剥き出しにされた股間に再び伸し掛かってきたのだ。広がり切った左右の尻肉を

両手で支えながら、その谷間の中心地に巨根の先端を滑り込ませていき、執拗な舌の愛撫で

散々舐めほぐされた肛穴に、ドス黒い巨大な亀頭を密着させた。

 完全に獲物を捕らえた肉食獣の気分になって興奮している坊主頭の男は、目を爛々と輝か

せながら、少年に非情な通告をした。

「ふふふっ……いくぞ」

「ああぁっ!」

 性的情報が氾濫する現代を生きている中学生である。これから何をされるのか、言われ

なくても分かる。たとえ、それが自分の常識や理解を越えた行為であっても、否定しようの

ない現実として、自分は男に犯されようとしていた。

 鉄のようにズッシリと重量感を感じる剛直だった。エラの張った亀頭が肛穴の周りの肉皺を

押し広げ、数ミリずつ小刻みに穴の中へと侵入してくるのを感じ、真琴は哀れな悲鳴を張り

上げた。

「ああぁっ、痛い……!」

「心配するな。すぐに気持ち良くなる」

「ああぁっ!」

 当然ながら、そんな場所に異物を受け入れた経験など皆無である。男の巨大でグロテスクな

形の肉塊に貫かれる恐怖で、真琴の頭の中はパニックにならざるをえなかった。

 硬い肉塊によって容赦なく引き裂かれ、こじ開けられていく菊門は、未体験の拡張を受け、

痙攣を起こしたような拒絶反応を示した。腰を引いて逃れようとしても、不自然な姿勢に

縛られている状態では、どうする事も出来ず、僅かに腰を左右に震わせる事が出来る程度だ。 

まるで、肉体の芯に大きな杭を打ち込まれていくようだった。少し侵入されるだけで全身に

激痛が走り、堪え難い緊張が電撃のように駆け巡る。真琴の顔からは血の気が失せ、蒼白に

なった唇がブルブルと震えた。

 苦悶する真琴の悲鳴など意に関せず、坊主頭の男は残忍かつ激烈に腰を送り込んできた。

さすがに怒張し切った肉茎の全てを挿入するのは不可能だと諦めたが、太い亀頭を秘門の

内側に押し込むと、肛道を蹂躙するかのように肉茎を震わせる。

「ぎいぃっ……」

 プチプチと筋が切れる感触があって、真琴は完全に錯乱状態になった。亀頭だけとはいえ、

秘穴の中まで侵入され、肛道の肉襞を抉られる痛みが絶える事なく続く。

 坊主頭の男が小刻みに腰を動かし始めてからは、もう何一つ考えられなかった。尻穴にも

防御本能があるようで、僅かながら分泌された粘液の潤みによって、抽送が少しだけスムーズに

なってきた。それでも、局所の激痛に全身が痙攣し、細胞の一つ一つが皮膚を突き破りそうに

なるのは変わらない。

「ひ、ひいぃぃっ……痛っ、痛い……!」

「ぐひひひっ、やっぱりガキはいいなぁ」

 抽送して引き出した肉茎に鮮血が滲んでいるのを見て、坊主頭の男は歓喜の声をあげた。

自分の肉棒だけでなく、その野太い凶器に抉られて裂けた肛穴にも鮮血が滴っている。

 折り曲げられた太腿の向こうから、低く漏れ聞こえる苦悶の呻き声に気付いた男は、初物を

犯す悦びに高揚したのか、更に力強く抽送を開始した。

「ぎっ……ぎいぃっ!」

 少しでも苦痛を和らげようとして逃げる身体をテーブルの中央へと引き戻し、頭頂部を両手

で抱えて固定した坊主頭の男が腰を振り立てると、真琴の弱々しい悲鳴が途切れ途切れに漏れた。

頭を抱えられてしまっては、この凌辱から逃れようもなく、固定された首は哀れに捩じ曲がる。

暴力的に荒れ狂う剛直に狭い肉路を抉られ、鉄杭を打ちこまれるような感覚に苛まれた

真琴の顔は歪み、涙が噴きこぼれた。

「ヘヘヘ、いくぜ……今、たっぷり出してやるからな……」

「あ、あ、あぁっ……」

「おおおっ……出すぞ!」

 坊主頭の男が雄叫びをあげ、その声の大きさで我に戻った真琴だが、そこから逃げられる

はずもない。男の汗まみれの股間が、何度も繰り返して尻肉に叩き付けられる。

「おらぁっ!」

 男が吠えると同時に、激しい腰の動きが止み、その直後、狭い肉道の中で肉棒が大きく

反りを打ったのが分かった。そこから、ジワジワと体内に熱が広がっていく。

「あ……あああっ……」

 同じ男だからこそ、肛道の奥に何が放出されたのか、真琴にも即座に分かった。

 肉茎が何度も反りを打ちながら収縮を繰り返し、不敵な笑いを浮かべた坊主頭の男は、

熱い鉄杭を狭い秘口から引き抜いた。血に染まる尻穴を晒し、精も根も尽きたように横たわる

真琴を残し、身軽にテーブルから飛び下りる。

「へへへっ、溜まりに溜まっていたザーメン、全部搾り取られちまった」

「満足したなら、もう行くぞ。さっさとズボンを穿いて、その汚いケツを隠してもらおうか」

 少年が犯され、純潔を奪われる一部始終を間近に見守っていながら、骸骨顔の男は冷静さを

崩さなかった。

「そろそろ誰か来てもおかしくない時間だ。下手に見られると、後で色々と厄介になる」

「まったく、余韻も楽しめないとは、何とも慌ただしい事だぜ」

 そうボヤきながら、手早くトランクスとズボンを穿いた坊主頭の男は、骸骨顔の男と協力

して真琴の拘束を解くと、放心状態の少年の口に手拭いを噛まし、部室の片隅にあった毛布で

裸体を包んだ。

「よし、大丈夫だ」

 部室のドアから廊下を覗き、、誰もいない事を確認した骸骨顔の男は、真琴の腰に手を

回して引き寄せ、一人では歩けない状態の少年を引きずるようにして外に連れ出していった。
「こんなの、何の意味があるんだよ……まったく」
 誰に聞かせる訳でもなく、頭に浮かんだ思いを素直に口に出して呟いた淳一は、
すぐ後ろに体育教師が立っている事に気付き、慌てて口を閉じた。
 毎年、この時期に三年生男子が全クラス合同で行う体育の授業は、秋にある
マラソン大会に向けての模擬マラソン練習だった。学校の正門を飛び出し、近くの
住宅街を抜け、約一キロ先の公園の噴水で折り返してくる周回コースを五往復。
走る事が好きだったり、体力に自信のある運動部の連中にとっては、五キロなど
軽々と走れるのだろうが、一年生の時から帰宅部を貫き、そもそも運動する事自体が
嫌いな淳一にとっては生き地獄以外の何物でもない。
 こんな長い距離を、大した意味もないままに走らされる事に何の疑問も抱かず、
むしろ楽しんでいるような奴らがいる事が、淳一には理解出来なかった。日頃から
心と身体を鍛練している運動部の連中には、連中なりの“走る意味”もあるのだろうが、
日頃からダラダラ生きている淳一にまで同じものを強制する必要はない。
 自分の身体を苛め、わざわざ苦しみや痛みを味わう事の何が楽しいのだろう。
そんなの、単なるマゾじゃないか、と淳一は思っていた。
 そう思っていても、普段の学校生活で口に出す事はない。クラスの大半が運動部に
所属していて、自分達のやっている事は正しいと思い込んでいる奴らばかりだ。
自分みたいに適当に生きている人間が否定して、わざわざ波風を立てるのも、
それこそ大した意味がない。
 苦しみに慣れていて、それに耐えられる人間は、苦しみを苦しみと思わず、別の
感情に昇華できるのだろう。不平不満を並べるのは、いつも自分のような半端者の
“出来ない奴”ばかりだ。
 淳一が呟いた不満が聞こえなかったのか、聞こえていたのに聞こえないふりを
装ったのかは分からないが、淳一と視線を合わせる事なく、整列した男子生徒達の
前に立った。
「よし、そろそろスタートするか。今日、気を抜いてタラタラ走っていたがいたら、
そいつは罰として一キロ追加だからな!」

 模擬マラソンの折り返し地点に設定された公園の駐車場に一台の車が停まっていた。
幅も長さも国産車とは一回りは違う、黒塗りの高級外車は、ごく平均的な中流家庭の多い
住宅街では明らかに浮いている感がある。その後部座席の窓越しに、目の前の道を
次々と走り抜けていくジャージ-姿の少年達を観察する女がいた。
「素敵ね、ああやって苦しそうに喘ぐ男の子の顔って」
 海外高級ブランドの黒スーツに身を包み、革貼りの座席に黒タイツの脚を伸ばして座る
女は、三十代後半か四十代だろうか。胴体だけでなく、手も、足も、首も無駄な肉を削ぎ
落としたかのように細く、長い。まるで骸骨のように痩せている細長い顔は、病的なまでに
青白く、その目は糸のように細い。愛敬や可愛らしさというものをどこかに捨て去ってしま
ったかのような不景気な表情は、既に老婆のようだった。への字形に曲がった唇は薄いが、
濃い色の口紅を塗られているので幽鬼のような白い顔の中で異様に目立つ。
 爬虫類を思わせる容姿からは、何とも言えない残忍さ、酷薄さ、そして執念深さを感じさせ、
意地の悪そうな視線は周囲に不快感を与える。
「アナルを弄られ、ペニスを扱かれ、ヒイヒイ言いながら責められる時も、あんな顔をするの
かしら。どう思う?」
 口元に微笑みを浮かべ、運転席に座る男へと同意を求めた。返事は返ってこなかったが、
笑みは消さない。
「男も女も、素人の子供に限るね。大人はすぐに諦めて、状況に慣れて、おとなしく従う
ようになる。中には、感じてもないくせに嘘ついて演技する奴までいるんだから始末が悪い」
 額に落ちてくる前髪を指で掻き上げ、女は少年達のをじっくりと値踏みするかのように窓に
顔を寄せた。
「その点、子供は素直で嘘はつかない。羞恥心が強い年頃だから、辱めを受けても必死に
我慢するし、なかなか諦めない。中には生意気で反抗的なガキもいるけど、そいつらの誇り
高い心と身体を責め堕とし、屈服させるっていうのが、また楽しいんだよ。アンタには分から
ないだろうね、この気持ち」
 相変わらず、運転席からは一言も返事が返ってこないし、相槌を打つ気配すら無かったが、
女は一人で喋り続けていた。
「今回は中学生の子を任せてくれるって言うから、わざわざ旅先から戻って来たんだ。誰が
何と言おうと、アタシの好き勝手にやらせてもらうよ。仕事は仕事として、ちゃんと仕上げる
つもりだけど、やり方はアタシが決めるから」
 鼻っ柱の強さを物語るように強気な言葉を吐くと、窓に鼻を擦りつけた女は、発情期の犬の
ように低く唸る。
「アタシに仕事を頼むにあたって、グダグタと文句を並べた奴がいたらしいけど、アタシだって
馬鹿じゃないんだ。前回は珍しく失敗したけど、これまで何人を立派に“納品”したと思って
いるんだい」
 良く回る舌で喋り続ける女に、運転席からは呆れたような溜め息が漏れるが、それに構わず、
女の喋りは止まらない。
「三ヶ月だよ、三ヶ月。ちょっと過激にやり過ぎて、“納品”の予定が少し狂ったくらいで、
三ヶ月も干されるんだからね。信じられないよね、まったく」
 大袈裟に首を振りながら愚痴をこぼす女を、運転席の男は無視する事に決めたようだった。
最後の少年が目の前を走り抜けるのを確認すると、無言で携帯電話のメールを打ち始めた。
 後部座席の女には女の仕事があるように、彼にも彼の仕事がある。マラソン練習に励む
少年達の列の中に今回の“御供物”がいた事を確認していた男は、その旨を短い文章で
打ち込み、公園内に待機している仲間にメール送信した。

「ふ・ざ・け・ん・な」
 公園の木々の間を抜ける遊歩道を走る淳一は、地を蹴る一歩ごとに一言ずつ区切った
不満を吐き出していた。
「め・ん・ど・く・せー!」
 走る事自体は苦手ではない。運動神経はクラスの中でも五本の指に入るし、五キロ程度を
走り抜く持久力もある。
 ただ、体育の授業として、こうやって半強制的に走らされることが嫌いなだけだ。
 長距離走では精神的な部分が大きなウエイトを占めているので、モチベーションの有る者と
無い者では、感じる疲労度が何倍も変わってくる。
 やる気が無いから疲れる。疲れるから、更に気持ちが沈む。まさに悪循環だった。
 既に先を行く集団からは大きく引き離され、前にも後ろにも他の生徒達の人影は見えない。
今さら少し頑張ったところで状況が変わるとも思えないし、周りに教師の目も無い。適当に
歩いたり、そのまま途中でサボってしまったとしても、誰にも気付かれない状況ではあったが、
それでも一応は足を止めずに走り続けているのは、淳一の中の生真面目な部分の表れだった。
「ううっ、吐きそう……」

  並木道を抜けると、ようやく右手前方に折り返し地点の噴水が見えてきた。
「や、やっとかよ……」
 熱い息を吐きながら、緩やかにカーブする道を走っていた時だった。
 突然、木陰から出てきた二人の男が淳一の背後に飛びかかってきた。
「なっ……?」
 いきなり地面に押し倒されると、両腕は後ろに捻り上げられ、髪を引っ張られて首がのけぞる。
「騒ぐな。ぶっ殺すぞ」
 耳元に口を寄せた男にドスのきいた低い声で脅されると同時に、背中に何か固いものが突き
付けられた。胸が詰まり、声が出せなくなった口を布のようなもので素早く塞がれ、そのまま路上を
引きずられていく。
 何が何だか分からなかった。履いていたスニーカーが片足だけ脱げて路上に転がると、それを
素早く拾った誰かが木陰に放り投げるのが見える。半ば呆然とした状態で、近くに止められていた
車の後部座席へと引きずり込まれた。
「出せっ!」
 車のドアが閉められる音と同時に男の声がして、車が動き出すのを感じた。
 うつ伏せで後部座席に押し付けられた淳一は、後頭部を手で押され、顔が皮張りの座席へと
擦り付けられる。
 布の裂けるような音がすると、目と口に何かが張り付けられた。布のテ-プだ。あっという間に
目の前は漆黒の闇に覆われ、呼吸は困難になった。鼻も座席に埋もれていて満足に息が
吸えない。
 再び両手が後ろに捻り上げられると、固い紐のようなもので縛り付けられた。苦痛に呻く少年
への遠慮や加減は全く感じられず、力の限りに固く締め付けられる。
「ぐっ、ぐむうっ……」
 脇腹を強く押された淳一の身体は、成す術もなく座席から転がり落ちた。無防備な体勢の頭と
肩が床に打ちつけられ、息が詰まる。目の前の暗闇に、チラチラと白い星が舞った。
 すぐに胸と太腿の上に重みが掛けられ、身動きを止められた。自分が男の両足に踏まれている
事を悟り、こみ上げてくる怒りに任せて身を起こそうとするが、狭い空間に押し込められている
身体は思い通りに動かせない。
 しばらくの沈黙が流れた後、電話をかける一人の男の声が聞こえ出した。
「もしもし、俺だ……ああ、捕えた……ああ、大丈夫だ。誰にも見られていない……ああ、そうだ
……分かった、事務所だな……了解した」
 携帯電話を切る音がすると、それを合図にするように男による会話が始まった。
「おい、直行だ」
「はい」
「俺たちにも抱かせてくれるんですかね」
「知るか」
「今、ヤッちまいましょうよ」
「馬鹿野郎。後で殺されるぞ」
「くわえさせるだけでも」
「駄目だ。指一本触れるなと言われている。我慢しろ」
 頭上で交わされる男たちの会話を、淳一はどこか別世界で行われている事のように聞いていた。
いや、実際は耳に入ってきても素通りするような感覚で、何一つ頭では理解出来ていなかった。
 自分の身に何が起きたのか、それすらも認識できない状態で、必死に荒い呼吸だけを繰り返す
しかない。

  淳一を乗せた車は、公園を離れてから二時間近く走り続けた。
 何がどうなっているのか、自分が何をされるのか分からない恐怖と
緊張感に全身を硬直させている淳一には、時間の感覚など全く
失われている。ただひたすら、この状況から一刻も早く解放して
欲しいと祈り続けるばかりだった。

 延々と走り続けた車がやっと停まったのは、郊外にある荒れ果てた
自動車修理工場の前だった。その外壁には油カスや泥がこびりついて
悪臭が漂い、もう何年も使われていないであろう形跡が見られる。
金網のフェンスで囲まれている工場の背後には小さな山丘が切り立ち、
前を通る道路にも交通量が少なく、周囲に人家も少ない寂しい場所
だった。
 助手席から降りた男が工場の入口に小走りで駆け寄り、シャッターを
押し上げると、車はゆっくりとシャッターの中へと滑り込んでいく。

 コンクリート剥き出しの壁に囲まれた工場の中は、既に機械類や
資材などは運び去られた後なのか、錆の浮いた鉄骨の柱が何本か
立っている以外は何一つ無い空っぽの空間だった。
 ゆっくりとしたスピードで工場の中に入ってきた車を、数人のスーツ姿の
男達が出迎えたが、後部座席から引きずり出されてきた淳一の姿を見ても、
男達は特に驚くような素振りも見せなかった。運転席から降りてきた男の
指示に無言で頷いた男達は、淳一の両脇を抱えて工場の奥に運んでいく。

 工場の一番奥の壁際では、パイプ椅子に脚を組んで座る一人の女が、
長細いメンソールの煙草の煙を燻らせていた。
 それは、公園でマラソン練習をする少年達の姿を高級外車の中から眺めて
いた、あの女だった。
「ご苦労さま」
「どうしましょうか」
「そうねぇ……」
 気だるそうに髪を振り、周りを見回した女は、すぐ近くに立っている太い
鉄骨の柱を片手で示した。
「あそこに縛って。逃げたり暴れたりしないように、足も縛ってあげてね」

 女に命じられた男達によって、ジャージの上下、その中に着ていた
Tシャツと次々に脱がされ、靴下まで奪われてしまった淳一は、黒いボクサー
ブリーフ一枚だけの屈辱的な半裸姿で鉄骨の前に立たされた。後ろ抱きに
した鉄骨の後ろで両手首を手錠で拘束され、胸から上腕、肋骨の下に幾筋も
縄が回されると、呼吸するのも苦しいほどに強く鉄骨に縛り付けられる。
 それだけでも全く身動きは取れない状態だったが、男達は女の命令に従い、
淳一の両足も拘束する事にした。両足首で鉄骨を挟み込む格好にすると、
そのまま縄で括り付けてしまう。
「ぐ、ぐうううっ……」
 目の前をガムテープに塞がれている淳一は、自分が何をされているのか
分からない。両腕と両脚で鉄骨を後ろ抱きにするという無理な姿勢を強要され、
全ての関節がギシギシと悲鳴を上げるが、同じくガムテープで塞がれている
口からは悲鳴は出せず、ただ苦痛の呻きを漏らすしかない。

 淳一を連れてくるという役目を終えた車が走り去っていくのを見送りながら、
女は改めて淳一を観察した。目元と口にガムテ-プが張られているので顔は
よく判らないが、脇を短く刈った黒髪と、尖った顎から痩せた頬へと至る
シャープな顔の輪郭を見ると、どことなく自分好みの少年ではないかという
予感がしていた。
 男達が自分の顔色を窺っているのに気付き、女は軽く頷いて合図を出した。
「外して」
 短い指示に従い、男達は淳一の顔を覆うガムテ-プを剥がしていく。遠慮など
せずに勢い良く引き剥がしたので、淳一の青ざめた顔には赤い跡が幾筋も残さ
れた。その他にも車の床にぶつかった時に出来たのか、額に赤黒い小さな痣が
ある。
 淳一は固く目を閉じたままだった。緊張と恐怖に身を固くして細かく震えている。
口を塞ぐテ-プが外されても、何一つ声を出す事が出来ない。
 無理もない。いきなり見知らぬ男たちに捕らえられ、事情も分からないままに、
ここまで連れてこられたのだ。いくら反抗心の強い年頃の少年でも、脅えるのは
当然の事だった。きっと、自分の置かれている状況を受け入れる事が出来ず、
頭が混乱していることだろう。
 顔の全てが露わになると、女は自分の予感が当たっている事に満足した。
 太い筆で書いたような濃い眉、アーモンド形をした一重の目、少し上を向き
気味の高い鼻、薄い唇と引き締まった口。
 育ちの良い純真そうな顔でありながら、その裏に確固たる意志の強さを感じ
させる顔立ちは、まさに女の好みだった。
 特に鍛え上げられた身体のようには感じず、どちらといえば華奢な身体だが、
無駄な贅肉は付いていない均整の取れた身体だ。胸筋や腹筋には目立った
凹凸は見られず、腕や脚の筋肉も発達途上だが、おそらく平均以上の運動
神経はあるのではないか。下手に筋肉質な身体よりは、程々の肉だけが付く
中肉中背の方が理想的な少年の身体だと思っている女にとっては、まさに
自分好みの体型である。
 下を俯いて震えるばかりの淳一を、男達が髪を掴んで上を向かせようとしたが、
女は片手でそれを制した。
「恐がらなくていいのよ」
 女は出来るだけ優しげに話しかけたが、淳一はそれに答えずに震えるばかり
だった。
「別に命まで取ろうというんじゃないの」
「ど、どうして、こんな……」
 淳一がようやく言葉を発したが、すっかり怯えきった声は聞き取りにくいほどに
低く、小さい。
「何で、こんな事……どうして……?」
 当然の疑問だろう。淳一には、自分がこんな目に遭わされる理由が全く思い
当たらない。
 車で運ばれている最中には、もしかしたら自分は誘拐されたのではないか、
という悪い予感が脳裏によぎったが、ごく平凡な会社員の家庭から大きな身代
金が取れるとも思えない。誘拐するなら、もっと金持ちの家の子供を狙うだろう。
 しかし、それなら何の為にこんな事をするのか。全然分からなかった。
「どうして……」
 そう繰り返すばかりの淳一に、女は小馬鹿にするような薄笑いで応える。
「どうして、と言われてもね。教えてあげてもいいけど、聞かない方がいいん
じゃない?」

 いきなり浴びせられた眩しい光に、淳一は顔をしかめた。
 鉄骨に縛り付けせられている少年に向けられたのは、スタンド式の大きな照明
器具からの光だった。
しかも、横一列に並べられた3台の照明の光が、たった一人の全身を集中して
照らし出す。
「な、何だよ……」
 目を開ける事も、正面を向く事すら困難な眩しさから淳一が顔を背けると、
顔中心に当てられていた光が全身を照らすように分散され、僅かに光量も弱め
られた。それは淳一の事を気遣った訳ではなく、単に少年の全身を均等に照らし
出す為の調整だったようだ。照明器具の後ろで操作を終えた男達は、途端に
淳一から興味を失ったように視線を外し、黙々と次の準備を始める。
 男達の一人が小脇に抱えてきて、照明の列の前に据えたのは、三脚の上に
乗ったビデオカメラだった。何が始められるのかを全く知らされずに困惑する
淳一にレンズが向けられ、フレームやフォーカスが手際良く調整されていく。
 自分の周りで状況が急展開していく中、一人だけ何も知らされていない淳一は
呆然と立ち尽くす事しか出来ず、いつの間にか両手両脚の痛みも忘れてしまって
いた。
 なぜ、自分にカメラが向けられているのか。
 この男達は、何を始めようとしているのか。
 分からない事が、あまりにも多過ぎる状況だった。
 そんな少年に、隣に立つ女が耳打ちする。
「ほらっ、馬鹿みたいにボケッと口を開けていないで。そろそろ撮影を始めるわよ」
「さ、撮影?」
 咄嗟に意味が分からず、オウム返しに聞き返す淳一に、女はウィンクを返す。
「ええ、貴方の

「なっ……!」
 いきなり女の手に股間を撫でられ、淳一はビクッと腰を引いた。こんな場所を
異性に触られた事など初めてだった。悪戯半分で友達に触られた事はあるが、
その時とは全く違う感覚で、触ったか触らないか分からないほどにソフトな触れ方で
ありながら、女の明確な悪意を感じる触り方だった。
 驚きと混乱に顔を赤らめ、言葉を失う少年の顔を、女は嬉しそうに覗き込む。
「うふふっ、ウブな反応しちゃって、可愛いわね」
今度は遠慮無く淳一の股間に片手を添えた女は、ボクサーブリーフの中に感じる
膨らみを柔らかく握り、グッ、グッと数回揉み込んだ。
「な、何するんだ……あっ……やめろ……」
「やめないわよ」
 ブリーフの膨らみを指先でポンポンと叩いた女は、まるで塗り薬を塗り込むように
円を描く指の動きで、淳一の股間に刺激を加えてくる。
 初対面の女に股間を揉まれる驚きと恥辱感に声をあげる淳一だが、女の細い指で
揉まれる股間からは、今まで感じた事のない種類の快感が広がっていく。必死に
堪えようとする本人の意思に反し、無防備で愛撫される股間は徐々に硬さを増して
きて、ジャージズボンの膨らみは、もはや隠したくても隠せない状態になっていた。
「や、やめ、やめろよ……あっ」
「何言ってんの。こんなに勃起させちゃって」
「そ、それは……」
 女の露骨な指摘に顔を紅潮させた淳一は、目や鼻、耳といった全ての穴から炎が
噴き出してきそうな程の熱さを感じていた。すぐ近くから顔を覗き込んで来る女から
目を逸らすと、正面から自分の姿を捉えているビデオカメラが視界に入り、そこに
“録画中”を表す赤ランプが灯っている事に気付くと、更に恥辱感は高まった。
「何、撮ってるんだよ!」
「言ったでしょ、撮影を始めるって。貴方のプロモーションビデオなんだから、いい顔
しなさいよ」
 ブリーフの股間で完全にテントを張ってしまった肉槍を、女の指先が摘み、サワサワと
優しく擦る。ブリーフを一枚挟んでいても、異性の指で敏感な性器を刺激される感覚は、
童貞の淳一にとっては強烈なものだった。
「あ、ああっ……」
 カラカラに渇いている口から情けない声と荒い息を漏らす淳一の耳元に口を寄せる
女は、低く艶やかな小声で囁いた。
「気持ちいい?」
「ふ、ふざけんな……やめろよ!」
「そんな強がっても無駄よ。こんなに大きくなっているくせに」
 こんもりと膨らむ淳一の股間を指で弾き、嘲りの含み笑いを浮かべた女は、羞恥に
赤らむ少年の耳たぶを前歯で挟んで甘噛みした。
「ひっ!」
「ねぇ、貴方、まだ皮かむり?」

「……えっ?」
 女の囁いた思わぬ一言に、淳一の頬が強張る。
「な、何が……?」
「決まっているでしょ。ペ・ニ・ス。貴方のペニスは、まだ包茎ちゃんなのかしら?」
女の不躾な質問に、淳一の頬は更に赤みを増したように見えた。そんな事を尋ねられた
のは生まれて初めての事だ。そんな事は男同士でも話さないのに、いきなり初対面の女が
尋ねてくる無神経さが信じられなかった。
「か、関係ないだろ」
「あら、怖い顔しちゃって……。教えてくれないなら、実物を見せてもらおうかしら」
「な、な、な、何を、やめろよ!」
 淳一の斜め前で片膝を付いて腰を下ろした女は、ちょうど自分の顔の高さ近くになった
ボクサーブリーフの腰ゴムの両脇に両手の指を差し入れた。淳一が目を剥いて睨み付け、
怒鳴っても、サディスティックな悦びに目を輝かせる女には全く動じる様子はない。むしろ
焦る淳一の反応を楽しみ、わざと焦らして弄ぶかのように、ゆっくりと少しずつブリーフを
引き下げていった。
「ああっ!」
「ふふふっ、どんなチンポかしら。しっかりアップで撮ってね」
 ほくそ笑む女は、録画を続けるビデオカメラに指示を出す余裕まで見せながら、
ブリーフの幅広のゴムを屹立する肉塊の上へとズリ下ろしていく。
「あらっ……」
 ブリーフの腰ゴムが膨らみの頂点を越え、隠されていた肉茎の先端が露出した瞬間、
女だけでなく、照明やビデオカメラの後ろに立つ男達の目も、遂に現れた生身の男根に
吸い寄せられた。

 腰ゴムの陰から顔を覗かせた肉茎の先端には亀頭の生々しい肉色が確かに見えたが、
完全に包皮を脱ぎ去っている訳ではない。ほぼ限界近くまで勃起している状態でも、
露出するのは亀頭の先端のみで、残りの大半は包皮に隠されたままの、いわゆる「半被り」
だった。

「あらっ、ご立派なペニスじゃないの」
 小馬鹿にするように口元を歪めた女が、更に腰ゴムを引き下ろすと、若い勃起は、先端
部分に引っ張られるように、勢い余って一気に肉茎の根元まで飛び出してきた。ブリーフに
掛かる女の指を押し退ける力強さで、恥ずかしげもなく、その全容を露わにしたのだ。
 ブリーフが足首まで引き下げられ、肉茎も睾丸も全て露わになった淳一の姿を、正面に
立つビデオカメラが冷たく記録していく。
「やめろぉっ! 録るなよ、馬鹿野郎!」
「うるさい子ねぇ」
 ハサミでボクサーブリーフを切り刻み、淳一の足から抜き取った女は、そのまま丸めた布の
塊を淳一の口に押し込んでしまった。
「ご、ごおっ……」
「貴方は黙ってペニスを硬くしていればいいの。余計な事は喋らないで」
「ご、おごっ……」
 ブリーフを押し込まれた口は限界近くまで広げられていて、布を吐き出す事は出来なか
った。苦しそうに喉を震わせ、裸の胸を上下させる淳一の姿を見て、遠巻きに周囲を囲む
男達からは、抑え切れない溜息が漏れ聞こえてくる。
「ほらっ、みんな見ているよ。みんなが貴方のカチカチになったペニスを見ている」
 裸の乳首を指で弾きながら耳元で囁く女の声が、淳一の羞恥心を増幅した。自分の股間に
集中している多くの視線と、自分を嘲笑う声が浴びせられているような錯覚に、背中を冷たい
汗が流れ落ちるのが分かった。
「ほらっ、見てごらん。ビデオも録画しているのよ。こんな場所で裸になって、こんなにペニスを
勃起させている恥ずかしい姿が、しっかり記録されているの」
「お、おごごっ!」
 身を震わす辱めに耐え切れなくなり、激しく身悶えする淳一だが、手首と両足を拘束して
いる縄が全く緩みも解けもしない事が何とも恨めしかった。無防備な裸身が波打ち、開かれた
脚の間では、不覚にも勃ち上がった肉棒が大きく揺れる。
「うふふっ、元気ねぇ。カチカチペニスがブ-ラブラ」
 こんな辱めを受けていながら硬くなっていく一方の性器を女に指差され、嘲笑われ、淳一は
恥ずかしさと悔しさに顔を赤く染めた。女の視線を遮る術はなく、肉茎の反応は全て丸見えだ。
「いいわね、この勃起の持続力」
「ごぉっ!」
 淫らな視線で見つめる女に屹立している肉茎を指で弾かれ、淳一は即座に過剰反応した。
身体の自由を奪われた状態で性器を刺激される事が、性的な感覚を敏感にしているようだ。
こんな風に自分が見知らぬ女の玩具にされるなんて、こうなっている今でさえ、悪い夢を
見ているようで現実感がない激しい混乱が頭を掻き回し、自分を見失ってしまいそうだ。
「本当にカチカチねぇ……」
「ぐっ!」
 女の冷たい指先が充血した肉棒に絡み付くと、呻いた淳一の背筋を、心地良い快感の
痺れが駆け抜けた。反射的に腰を引いたが、しっかりと肉棒を掴んだ手は絶対に逃がしては
くれない。
 悶える淳一をサディスティックな目で見つめながら、白木の小枝のように細い指を熱く灼け
付く肉茎に絡ませた女は、少年の性感を弄ぶようにジワジワと締め付けた。
「熱い……やっぱり若さかしら」
 そう呟きながら、程良い力加減で優しく握り、素早く上下に扱き始める。
 シコシコとリズムカルに扱かれる肉茎は敏感な反応を見せ、限界まで膨張させられると、
今にも発火しそうな熱を放ち始めた。包皮から僅かに顔を突き出す真っ赤な亀頭は潤み、
鈴口からは透明な雫が染み出してくる。
「お、おおおっ……」
 泣きたくなるような屈辱感に包まれながらも、狂おしい快感が股間から駆け上がってくる
という複雑な感覚に悶絶する淳一は、全身の筋肉を緊張させて射精欲と戦った。そんな
淳一の耳元で女が悩ましく囁き、肉付きの薄い胸から腹までを撫で回す。
「そんなに頑張っても無駄よ。どうせ逃げられないだから」
女の片手は、継続的に素早く一定のリズムを刻んで肉茎を扱きながら、人差し指と中指で
作ったV字の股で肉茎の両脇を扱くなどの変則的な手管も織り交ぜてくる。自分の手では
数え切れない程に自慰を繰り返してきた淳一だが、それとは全く感覚で、快感の度合いは
比較にならない。
「ぐ、ぐぐっ……」
唇を噛み切りそうになるほどに強く喰い締め、額に血管を浮き出させて全身を力ませる
淳一だが、その一方で、もはや耐え切れない事を頭の片隅で感じ取ってもいた。
 今すぐにでも射精したいという生理的欲求が、股間から焼け付くような熱気となって体内を
駆け巡る。
 ここで屈伏したら、男としての誇りを失われてしまうが、いくら我慢したところで、こんな拘束を
されている状況では、絶頂を迎えてしまうのは避けられないだろう。それが早いか遅いかの
時間の問題に過ぎない。
 二つの相反する考えが衝突して火花を散らす頭の中は真っ白になり、淳一の全身の
硬直化を促進した。
「あらっ、こっちもカチカチ」
ワナワナと震える少年の薄い胸板の上にポッチリとある乳首に、女は唇を寄せ、いきなり
吸い付いた。
「ぐむっ!」
ビリビリした快感が乳首から脳髄まで超高速で伝わり、反射的に背中を反り返らせて唸る
淳一を上目遣いで見つめながら、女は少年の乳首を唇で包み、舌先で舐め回し、前歯で
軽く甘噛みし続ける。
「ぐぐっ……」
 乏しい性知識しか持たない淳一は、予想外の責めに動揺した。射精の衝動を必死に耐えて
きたプライドの壁が、次第に決壊へと向かっているのが自分でも分かる。
それでも、全身から汗を滲ませ、最後まで抵抗し続けようとする淳一に、女は呆れた声で
呟いた。
「往生際が悪い子ねぇ……これならどうかしら?」
片手で肉茎を扱きながら、もう片方の手で陰嚢を包んだ女は、ヤワヤワと揉みしだき、睾丸を
手の平で転がした。
「ご、ごぐぉっ!」
精力の強い若き肉体は、的確な性的刺激を加えられ、生理的反射で暴発しそうになった。
限界を直前に迎えた精液は、淳一の意思に反抗し、下腹部の内側から外に突き破りそうな
勢いで尿道へと押し寄せようとしていた。もはや肉茎は破裂寸前まで膨れ切り、発射準備は
完了している。
「ぐご、ごぐぐっ……」
最後のトドメとばかりに、肉茎が素早く上下に揺さぶられると、淳一は逃れられない破滅に
向かう肉体を身悶えさせた。

 ところが、女は悪魔だった。
 サディスティックに微笑んだ女は、暴発直前の肉茎から、いきなり手を離してしまったのだ。

「ぐっ……」
不発に終わった腰が何度もガクガクと空を切り、発狂しそうな程の焦燥感か少年を襲う。
全身に悪寒が走り、脂汗が噴き出し、何が起こったのか分からない衝撃で頭は真っ白に
なっていた。
目を剥いて悶絶する少年の様子を見て、女はケラケラと嬉しそうに笑った。
「あら、ごめんなさい。手が滑っちゃった」
そんな言葉も、淳一の耳には届かない。他人に肉茎を扱かれる事など初めてで、ましてや
途中で中断されるなど予想も付かなかった。少年の心を唯一支えてきた自尊心も、猛烈な
射精欲に押し潰されていまい、もはや身体をビクビクと痙攣する事しか出来ない。
「そんな簡単にイカせてもらえると思ったら大間違いよ」
女の声は平静を装っていたが、語尾は僅かに震えていた。膨張し切った少年の性器を
観察して、すっかり興奮しているようだ。
「もう一回、楽しませてあげる」
 そう言いながら、再び肉茎に指を絡める女の顔は、まさに悪魔だ。ようやく痙攣が治まり
始めた肉茎が、またも激しく扱かれ始める。
「ぐごっ……」
最初は丁寧に優しく、次第に強く激しく荒々しく扱く女の手管に、淳一は再び追い込まれて
しまった。
 今度こそ、間違いなく射精してしまうだろう。もう誇りも知性も捨て、ただひたすら射精まで
導かれるのを心の底から哀願していた。既に抵抗する気力も消え失せている肉体は、焼け
付く快感の波に身を委ねるばかりだ。
女の手はリズミカルに動き続け、着実に淳一を限界へと追い詰めて行く。
「ぐ、ぐぐっ……」
 嗚咽と荒い息を吐き続けながら、淳一は自分が情けなくて堪らなかった。こんな女に性的な
悪戯を受け、発情期の犬のように勃起させられ、周りを取り囲む男達の見世物にされるだけで
なく、ビデオカメラにまで撮影されているのだ。それが分かっていても、射精する事を拒めない
自分が惨めだった。
「ごっ……ごごっ」
何度も射精寸前になりながらも、淳一は辛うじて自分を保っていた。嬲り者にされまいとする
必死の抵抗だったが、女が悪意をもって淳一の快感を引き延ばしている事もある。強制射精を
迫られた少年が悶える姿を長々と晒し、とことんまで辱めようとする悪魔の発想だった。
 そんな企みを心に秘めながらも、淳一の耳元に口を寄せた女は、甘い囁きで少年を惑わせる。
「我慢しなくてもいいのよ。出したいんでしょ?」
声色こそ女っぽかったが、切羽詰まっている淳一にとっては魔女の囁きでしかない。そんな
声に惑わされないように目を閉じた淳一は、今にも破裂しそうな性器感覚と懸命に闘った。
もう少し強く扱かれたら、もう少し激しく擦られたら、いきなり破裂しただろう。ジンジンと痺れ
切っている肉棒は、快感の小山を何度も上り詰めながらも、危うい地点で女に焦らされている。
「ぐっ……ぐごごっ」
淳一の両脚は切なく震えながら、快楽に耐える力で張り詰めていた。腰が細かく痙攣し、
体毛の少ない伸びやかな脛がピーンと緊張する。
 尋常でない熱気が、淳一の周囲を取り巻いていた。こんな形で射精させられる屈辱に顔を
歪めつつ、淳一は最後の地点へと追い込まれていく。
「ぐうっ!」
絶頂を目前にして、淳一は大きな唸り声をあげた。

しかし、またも女の手は止まり、再び肉茎が手放されてしまった。まさに悪魔の所業だった。
 激しい熱波が少年を包み、ガクガクと腰が空振りする。力んだ顎の骨が割れそうに痛み、
口は渇き、心臓は破裂しそうな程にバクバク高らかに鳴り響いていた。
子供から少年に成長していく途上で、精液の生産能力が高まってきた年頃の敏感な肉体で
ある。それを焦らすとは、何と惨い仕打ちだろうか。

今にも狂い死にしそうな淳一の姿に、もう限界だと見切ったのか、女は最後の仕上げに取り
掛かる。
「うふふっ、たっぷり搾り取ってあげるから」
興奮のあまり、滲み出る汗で額に前髪を貼り付かせた女は、改めて肉茎を握り直し、今度は
一切の遠慮を抜きにして激しく扱き始めた。そこには淳一に快感を与えようとする意思は無く、
屈辱的な射精を強制しようとする強い悪意が感じられる。
「ご、ごぶっ……」
再び快感のジェットコースターは発車された。乱暴ともいえる強烈な扱き方は、快感と共に
鋭い痛みも感じさせる。白目を剥いた少年は、恥も誇りも捨て、目に涙を浮かべた。
「ご、ごぐぅ……」
「ほらっ、気持ち良いんでしょう。今度はイカせてあげるから……このペニスから、いっぱい
出すのよ」
 扱く手が火傷しそうになる程に肉茎が熱くなっているのを嬉しく思いながら、女はセックス
初心者の少年を射精へと導いていく。
「ほらっ、今度は意地悪しないから、安心してイッちゃいなさい」
恥辱に歪む顔に僅かな恍惚の色を浮かべる少年に囁きかけながら、先走り汁で潤む亀頭に
指の腹を軽く擦り付けた。
「ぐっ!」
 ブリーフに塞がれる口から悲鳴が迸り、淳一の全身の筋肉が緊張に包まれる。いよいよ、
絶頂の時が迫ってきたのだ。
「それっ、イッちゃいな!」
 そう命令した女が、片手に握る肉茎を強く引き上げた瞬間だった。
「ぐっ!」
肉槍が大きく跳ね上がり、淳一の腰が僅かに鉄骨から浮き上がると、肉茎の先端から
大量の精液が噴射された。水鉄砲のように鋭い勢いで放出され続ける白濁液は、空中で
細い筋を描き、コンクリートの床に点々と飛び散っていく。
女の手に支えられた肉棒は、ビクンビクンと痙攣する度にポンプのように精液を噴き出し、
まるで放尿をしているかのようだった。
「うっ……」
 頭の中が朦朧とする淳一は、やっと射精が出来た至福感に浸りながら呻いた。
 今まで自分でしてきたオナニーが児戯に思えてしまう程の快感だった。絶妙の
技巧で扱かれ、限界以上まで焦らされ、汚辱で心を嬲られ、その果てに迎える事の
出来た射精の瞬間は、頭で何も考えられなくなる程に充足感に満たされたものだった。
 しかし、そんな幸福な時間など、長くは続かない。身体を熱くしていた射精欲と
集燥感が収まると、次第に身体は重くなり、真っ白になっていた頭も醒めてきた。
それまで抑えられていた理性と知性が蘇ってきて、少年を責め始める。
「ぐ、むぐっ……」
 取り返しのつかない事をしてしまった喪失感と恥辱感に苛まれ、今にも泣き出しそうに
なった淳一だが、女は急速に萎びつつある肉棒を軽く上下に振って、尿道に残る残滓を
最後の一滴まで搾り取った。
「ふんっ、凄いザーメンの量だね。だいぶ溜まっていたみたい」
 確かに、床に飛び散った精液は色も濃く、予想以上の量であり、栗の花にも似た獣臭が
周囲に漂っていた。それを見下ろした淳一は、そのまま青ざめた顔を上げようとしない。
精魂尽き果てていて、首を起こすのも苦しい事もあるが、何よりも、自分を射精まで追い
込んだ女と目を合わせる事が恥ずかしかった。
「正面を向きなさい。ザーメン搾り取られて、一人前に恥ずかしがっている顔をカメラに
見せて」
 冷酷な声で告げた女は、小さく荒い呼吸を続ける淳一の股間に手を伸ばし、
小さく萎びた陰嚢を片手で握り込んだ。
「ぐっ!」
「早くしないと、大事なタマを握り潰すよ」
「う、うぐぐっ……」
 慌てて首を振って訴える淳一だが、女は陰嚢を離さず、更に力を込めて握った。
睾丸同士がグリグリと擦り合わされ、内臓を掻き回されるような苦悶は、喪失感に沈む
少年を屈伏させるのに充分過ぎる。
「ごぉぉっ!」
「早く顔を上げて」
 苦痛に耐えかねて顔を上げ、涙に霞む目を正面に向けた淳一は、目前の闇の中で
妖しく光るビデオカメラの赤い録画ランプと、小刻みにズームが変わる撮影レンズと
目が合うと、たちまち顔を紅潮させて息を呑んだ。
「ぐっ……」
「ふふっ、今さら、恥ずかしがっても遅いでしょ……まだまだ終わらせないわよ。もっと
恥ずかしい姿を見せてもらうから」
 淳一の肉茎を五本の指でしっかりと握り込んだ女は、再び掌と指で巧みに刺激し始める。
「う、うごぉっ……」
 一度の射精を終えて萎んでいた肉棒だが、健康な少年の生理反応は正直だった。
顔を真っ赤にして恥ずかしがる気持ちに反して、若き肉茎が再び充血していくのは
止められない。
「とんだ嘘つきね。口では嫌がっているのに、こんなに勃起させるなんて」
「ご、ごごぉっ…」
「ふふっ、また気持ち良くなっちゃってるのね」
 乾いた唇を舌でベロリと舐めた女は、ブルブルと震える肉棒の姿を映した黒い瞳を、
淫らな興奮で潤ませていた。
「このイヤらしいペニス、どんな味がするのか、誰かに味見してもらおうかしら」
 振り返った女と最初に目が合ったのは、左側の照明の傍らに立つ男だった。
「坂田君、おいで」
 微笑む女に手招きされたのは、女を運んできた高級外車の運転手を務めていた
坂田だ。坊主頭に眼鏡をかけた真面目そうな男は、いきなりの指名に驚く素振りも
喜ぶ素振りも見せず、全く感情が見えない無表情を貫いている。
「はい、バトンタッチ」
 淳一の側を離れた女から擦れ違いざまに肩を叩かれ、無言で頷いた坂田は、
つまらなそうな顔で淳一の前に跪き、怒張する肉棒へと顔を近寄せていった。
「ご、ごぉっ……」
 坊主頭が自分の股間に沈むのを、淳一は怯えた目と緊張の面持ちで見つめた。
 性的に敏感な年頃の少年である淳一は、フェラチオという行為の事は知っていたが、
話で聞くのと実際に行うでは天と地ほどの差がある。しかも、そんな行為を男が同じ男に
行うなんて、淳一の考えられる常識の枠を遥かに超えている。
 初めて経験する行為が、同性である男によって施されようとしている、その倒錯した
感覚は、計り知れないものだった。自分の意思に反して強制的に犯される恥辱と、
純潔を汚される敗北感、そして猛烈な汚辱感が、淳一の背筋をブルブルと小刻みに
震わせる。
 肉棒の先端に鼻を近寄せ、クンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた坂田は、そこで
初めて口を開いた。
「臭い……生ゴミの匂いがするな」
 その呟きは、羞恥心の強い年頃の少年には耐え難いものだったが、そんな事に構わず、
坂田は肉茎の根元から裏筋、亀頭の鈴口まで丹念に嗅ぎ回る。
「何て臭いチンポだ。皮に溜まった薄汚いチンカスの匂いがプンプン漂ってくるよ」
 上目遣いで少年の顔を見上げて挑発する坂田は、何やらブツブツと口の中で呟くと、
舌先を肉茎に伸ばした。
「ぐ、ぐうっ!」
 焼き付く程に熱くなった肉棒に坂田の舌がチロチロと触れ、淳一は堪らず呻きなから
背筋を反り返らせた。
 坂田の舌は、肉茎の根元から陰嚢との継ぎ目、そこから裏筋を舐め上がっていくと、
尖らせた舌先で亀頭の鈴口を舐め掻く。
「ふぐぅっ……」
 歯を食い縛り、白目を剥いて悶えた淳一は、肉棒をプルプルと震わせた。周囲から
向けられている視線を肌に感じ、ビデオカメラに撮影されているという意識が歯止めを
掛けなければ 、そのまま射精してしまってもおかしくない衝撃と快感だった。
 肉茎の側面に唇を寄せた坂田の顔が、フルートでも奏でるかのように左右に動くと、
淳一は半ば悲鳴でしかない嬌声をあげ続ける。
「ぐぐぐっ……!」
 少年の過剰な反応を冷ややかに見つめる坂田は、カリ首の括れを舌でなぞり、まるで
飴玉を舐めるように舌を動かして、美味しそうに亀頭を舐めしゃぶった。
「ご、ごおっ……」
「もっと舐めて欲しいんだろう? このイヤらしいチンポを口で咥えて、グチュグチュと
扱いて欲しいんだろう。どうなんだ、言ってみろ」
 坂田に問い詰められても、真っ赤な顔で目を閉ざし、ひたすら堪え続ける事に専念
している淳一の耳には入らない。
「ふんっ……」
 いかにも嫌そうに鼻を鳴らし、細めた目を伏せた坂田は、大きく口を開いた。もともと
唇が厚くて大きめに見える口だが、それを更に大きく開くと、そのまま股間を噛み千切って
しまいそうな迫力がある。
 僅かな恐怖と歪んだ期待に包まれた淳一が荒い息を吐いた瞬間、肉棒の先端が
坂田の唇に咥え込まれた。
「んぐっ……!」
 焦らされ、嬲られ、倒錯の快感に痺れていた肉棒に新たな快感が咥えられ、淳一は
切ない悲鳴をあげた。亀頭が唾液に浸され、舌をヒラヒラと這わされると、堪らず呻いて
身悶えする。
「ぐごっ!」
 肉棒の先端、カリ首の括れまでしか咥えなかった坂田だか、残りの肉茎を指で挟み、
シコシコと上下に扱き出すと、もはや淳一は限界寸前だ。
「ぐ、ぐ、ぐぐぅっ!」
 完全に追い込まれた淳一だが、ギリギリのところで坂田の片手が肉茎の根元を強く
握り、尿道を塞き止めると、放出寸前の精液は下腹部を破裂させそうな程に溜まって
いく。
 更に、もう片方の手が引き絞られた陰嚢を握り込み、揉みしだいては引き下ろし、
少年を悶絶地獄に墜とした。
「がばっ……ごがぁっ!」
 全身から汗が噴き出し、緊張した筋肉がワナワナと震え、泡を噴かんばかりに悶え
狂っても、射精という出口までは辿り着けず、絶望的な快感に終わりは見えない。
 少年の痙攣が激しくなり、引きつけの発作のようにガクガクと首を振っても、坂田は
亀頭責めを緩めなかった。鈴口を唇で塞いで強く吸い上げ、ジュルジュルと音を立てて
尿道を啜り出したのだ。
「ぐぶぅっ!」
 もう何が何だか分からなくなった淳一が獣のように吠えた時だった。
 いきなり坂田が顔を引き、唇から肉茎を開放すると、その先端を宙に向けて解放した。
「がっ……?」
 一瞬だけ躊躇して動きを止めた淳一だが、その直後、塞き止められていた精液が
一気に尿道に流れ込み、再び獣のように吠えた。
「ごおぉっ!」
 二度目の射精でありながら、一度目にも勝る勢いで白濁液が噴出された。一発目が
水鉄砲なら、今回はホースによる放水に例えられる程に高く、広範囲に飛び散っていく。

 周りの床だけでなく、自分の太腿まで精液で汚した淳一は、痴呆のような表情を
浮かべて幸福感に浸った。坂田の舌技による責め苦から開放され、陰嚢の中の精液を
最後の一滴まで搾り取られた気分は、まさに天国まで舞い上がるようなものだった。
「また臭いザーメンを撒き散らしちゃって……」
無言で立ち去った坂田と入れ替わり、再び淳一の横に立った女は、呆れた口調で罵った。
「こんなにザーメンを出しておきながら、まだ硬さが残っているなんて、限度も節操も無い
スケベなペニスねぇ」
 小さく縮こまった肉茎を指先で摘み、まだ包皮の先端に残る精液の滴を振り払った女は、
長い髪を片側に掻き寄せ、淫靡な表情を浮かべた。
「ああっ、もっと虐めてあげたくなっちゃった。万力に挟んだタマを一つずつ押し潰した後、
ノコギリでペニスを真っ二つ にしてやろうかな。横に真っ二つじゃなくて、縦に真っ二つに
してあげる」
 平気な顔で恐ろしい事を言う女の脅しに、去勢される自分の姿を想像した淳一は思わず
身震いした。この女なら、本当にやりかねないと思ってしまうのだ。
「私が見たところ、貴方には素質がありそうだわ。これから時間をかけて、貴方が想像も
出来ないような事を色々と仕込んであげる。楽しみにしていなさい」
 その言葉を聞いた途端、淳一の胸には得体の知れない不安と嫌悪感が広がった。
素質とは?
 仕込むとは?
 この女達は淳一に何を求め、何が目的なのだろうか。
 様々な想像が頭の中を駆け巡ったが、こんな目に遭わされなければならない理由は
全く思い付かなかった。
全裸のまま、呆然と立ち尽くす少年は、これから自分を待ち受けている運命が、自分の
想像など遥かに超える過酷なものである事を、まだ知る由も無かった。